何が起きているのだろう
颯爽と私の前から去っていったフォルスは、歩きながら展示してある長い棒を勝手に手に取った。
その長い棒は先端に平べったい金属のような物が付いていて、柄の先端に近い場所には不思議なでっぱりが直角についていた。
「踏み鋤で彼は何をするつもりだ?」
私はスウェインに振り返った。
「踏み鋤?」
「ああ、古代の農具だよ。スコップのない時代の道具でね、あの直角の部分に足を乗せてね、てこの原理で土を掘るんだ。」
さすが、農業の歴史が大好きな御仁だ。
「そんな道具だったのですか。今も普通にお店にありましたら、買ってましたものを!女性が土を耕すのに鍬よりも良さそうですのに!」
彼はハハハと良い声で笑い、彼の隣のミュリエルも噴き出していた。
「ミア様は土を耕した事がおありに?実感が籠ってますわよ。」
「我が家は貧乏でしたから、わたくしがトマトと人参を育てていたのです。」
「ええ!」
「まあ!」
スウェインとミュリエルは驚きの声をあげたが、ミュリエルが普通に目を丸くしていただけなのと違い、スウェインは両目に罪悪感を浮かべた。
彼は自分のせいだと呟こうとしたのか、じぶ、まで言ったがそこで終わった。
バシ!
ドン!
ビシ!
私達が目をそらしていたフォルスが大きな音を立てたのだ。
驚いた私達が再びフォルスを見返した時、彼は古代の農耕器具をグルんと槍のように回して床に打ち付けたところだった。
タン!
彼の足元にはお揃いのベージュ色のスーツを着た三人の男達が転がっており、その三人は全員体を押さえて呻いている。
「な、何事?」
私は唖然とするだけだ。
そんな私の目の前で、フォルスは三人のうち一番若そうな男の襟元を掴んだ。
そしてそのままその男を引きずって、彼は部屋から姿を消したのである。
後の二人は異常に気付いて飛んで来たらしき警備兵達によって拘束され、警備兵達もフォルスが消えた方向へとその囚人を連れて消えてしまった。
「何が起きているの?」
「まあ、フォルス様はお強くてらっしゃる。さすがに少将閣下様ね。」
茫然としてしまった私と違い、元帥閣下の孫であるミュリエルは脅えるどころか目を輝かせてフォルスを称賛していた。
「ええ!三人を倒したのも、フォルス、なの?」
「そうでしょうよ。嬉しくないの?強い男性ならば安心じゃない。」
「え、ええ。」
父が弱い人だったから私は父の暴力を交わせたのだ!
強い人に暴力を振るわれたらどうしたらいいの!
私は大きく息を吸っており、きっとニーナもフォルスに脅えてしまったかもしれないと気が付き、スウェインに抱かれたままのニーナを見上げた。
「あら。」
ニーナは脅えているどころか、スウェインと同じような眼差しでフォルスの消えた戸口を見つめていた。
物凄く嬉しそうな笑顔も作って。
「わあ!私もあれが出来るようになりたいわ!さすがフォルス様!いちどきに悪い男を三人も倒されたのよ!」
「うん、凄いね彼は。あとで君にも教えてあげようか。長い棒を武器に使えれば女の子も悪い男に勝てるからね。」
「まあ!あなたは初めて私に興味深いと思わせることを口にしたわよ!」
残酷なニーナに対し、スウェインはハハハと情けなさそうな笑い声を立てた。
私とミュリエルは一緒に吹き出して、でも、スウェインが可哀想だと笑い顔を見せないようにスウェインから顔を背けた。
私は不思議なものを見つけた。
金色の縦ロールの派手な髪形がふさふさと動いていたのだ。
服装はウエストベルトのある小柄チェックのグレーのドレスという、髪形と比べれば地味で趣味の良いものだ。
どうしてジョゼリーンはベロニカのカツラを被ってここにいるの?




