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皆で侯爵家に行きましょう!

 アガート侯爵家のタウンハウスは迷ったら行き倒れられる程に広大で、まるで王様か神様が住んでいるのかと錯覚する程に荘厳だった。

 図書館の管理人室に住んでいた未亡人の正体が、実は夫が元気に生きている侯爵夫人であったとは、私もニーナも人生の神様に弄ばれているようである。


 そして、そんな無力な私達は、私達を迎えに来た侯爵家の馬車に有無を言わさず乗せられて、首都の侯爵家の玄関口に配送されたのである。

 玄関など、私達が住んでいた家の半分ぐらいの広さがあるホールだった。

 その場所だけで、私達が住んでいた家以上の価値があるキラキラぶりだ。


「お姉さま!私は一歩も動けません事よ!一歩でも動いて何かを壊してしまったらと思うと不安で不安でたまりませんわ!」


 私もその通りで、そして、一番心配するべきはボスコだろう。

 けれどボスコは彼なりに高価な場所だと判っているのか、物凄く不安そうにしてニーナに抱きついて固まっていた。

 私は彼の姿に少し安心できた。

 いや、暴れた方が良いのだろうか。

 私達が連れていかれると知ったフォルスは、私達を連れていくなら絶対にボスコを連れて行けと凄んだのである。


   ―――


「ボスコはニーナの心の支えであり、最高のボディガードができる生き物なんだ!ボスコとニーナは離れ離れには出来ない!」


 すると、ニーナはフォルスに抱きついた。

「お兄様こそ心の支えですわ!どうして大好きなお兄様と離れ離れにならないとなりませんの!」


「ああ、ニーナ!私の不甲斐なさを許しておくれ!だが、許されるのならば、私こそ君とミアの傍に控えて守りたい!」


「ああ!お兄様!では傍にいらしてくださいな!ずっとずっと私達と一緒にいてくださいな!」


 二人は台本を読むようにして、妹よ、兄よ、と、お涙ちょうだいの芝居を続けたが、男爵家にはカミラというフォルスをよく知っている男爵夫人がいる。


「私も一緒に行くから心配いらないわよ。あなた方の結婚は三か月後でしょう。私とマルグリット様で花嫁衣装や披露宴の手配をするから安心して。」


 私達を連れて行かせまいとニーナと三文芝居をしていた彼は、カミラのその台詞でぴきーんと固まり、眉毛が一本になるような顔つきで男爵夫人を見上げた。


「さんかげつご?俺はあと二週間後ぐらいには結婚できるように大聖堂に予約もいれてありました、けど?」


 カミラは鼻で冷たく笑った。

「朴訥男はこれだから。あなたは女性の幸せを考えていない。」


 まあ!フォルスは完全に凍ってしまった。


「いいこと?ミアの事を考えるなら本当は短くても半年は婚約期間は必要なの。それを三か月で済ませたのだから感謝なさい。それからね、ミアには最高の日にしてあげたいのでしょう。顔の痣が無い状態で最高に美しく着飾らせてあげたいとあなたは思わないの?」


 フォルスはあっさりと、おっしゃる通りです、と敗北を認めた。

 彼はいつだって私一番なのね!


「あの、カミラ。私は今すぐにフォルスと結婚したいくらいなの。それに、私は別に着飾らなくても……。」


「あなたは黙っていなさい!」

 カミラの声は恐ろしいくらいに威圧的で、私は素直に小さくなるしか無い。


「はい。ごめんなさい。」


 私の右手はそっと優しく大きな手に包まれた。

 フォルスだ!

 いつの間にか立ち上がって私の横に来ていた彼は、私の右手を両手で優しく包み、なんと、涙の滲んだ感極まるという瞳で私を見下ろしている。

 彼の瞳は何て美しい水色なのだろう。


「嬉しいよ。君が私との結婚を望んでくれていると知って、本当に嬉しいよ。」

「フォルス!」


「じゃあ、話は決まりね。ミアとニーナと私が首都の侯爵家に行く。あなたは三か月後の結婚式まで大人しくしている。結婚式にかかる費用の請求書は全部あなたに回すから心配しないで。良し、決り。決まったわよ、マルグリット。さあ、首都に行きましょう!」


 私とフォルスは仲良く、え?、と声を出していた。


 豪華な応接間で一人成り行きを眺めながら紅茶を啜っていた老女は、出来たばかりの親友の掛け声ににんまりと猫のような笑顔を浮かべた。


「ええ決まりですわね。そのワンちゃんも連れて来てよろしくてよ。我が家は無駄に広いですからね。」


   ―――


 そうしての、いま、であるが、三か月、この広い家で私は落ち着けるのかしら。

 貧乏性の私はこじんまりとしたお家の方が良いの。

5/27 読み辛いのと過去と現在が混ざっているので、ちょっと区切ってみました。

6/11 変な区切り線を修正しました。スマートフォンでは真っ赤になるとは知りませんでした。

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