ストゥルティは侵攻させず
「あの大きな船はどこのものだ?」
フィッツは俺が酷い奴だと笑った。
「何がだ?」
「もう!君の叔父さんに押し付けられた仕事をしている僕を労わるどころか、将軍様の顔で情報を寄こせときたものだ。」
「で、あるんでしょう。情報。ちょうだい。ミアとニーナが誘拐された。俺は彼女達を追ってここまで来たんだ。」
「何をやってんの。」
「いくらでも間抜けって罵っていいよ。頼む、教えてくれ。」
「申し訳ないが、ミアとニーナはわからない。そして、最初の質問は答えられる。フローディア国の客船の振りをしたあの帆船はエンバイル兵が乗った戦艦だ。フローディアにはエンバイルに嫁いだ姫がいるものね。」
「小国なのはわかるが、フローディアは下手を打ったね。」
「下手を打ったというか、もう侵略されちゃったんじゃない?」
「それで、あの船は何時でも港を侵略できる準備は万端ってことか。」
「当たり。万博で多国籍の船が我がアグライアの港のそこかしこに停泊しているじゃない?エンバイルは号令をかけて多発的なテロ行為を起こそうと異国の船の振りをして準備していた。事前情報で沖に沈めてやったそうだけどね、あれは一足も二足も遅れてやって来たばかりの船なんだ。」
「たぶん、本命の船でもあるんだろう。ここに上陸して侵略しながら首都を目指す。ここからだったら丸一日で祭りに浮かれる首都を襲撃できる。」
「そうだね。僕達に沈めさせた船は目くらまし。イーオスじゃなきゃそこで安心して終わりだったろうね。さて、今度は簡単に戦艦と見破られないように一般人のフローディア人で客室が一杯という仕様だ。彼等は無邪気に万博と観光を楽しみにしているらしいよ。」
「でも、さすがの君は内部も完全に調べ上げちゃったんだ。」
フィッツは本気で疲れた様にして天を仰ぎ、俺は色男でいるのも無理難題を申し付けられて大変だな、と彼に同情した。
客の一人の愛人となって船内に潜り込んだのは間違いない。
金色の髪を染料で茶色く染めて無精ひげを生やした男は、小汚くとも、女性どころか男性でも見惚れてしまう程の色男に仕上がっている。
実は金髪で煌びやかじゃない方が彼は人たらしの本領を発揮するのである。
「お疲れ様。それで、お疲れ様の所で悪いけれど、女の子を誘拐したら連れ込めそうな宿を教えてくれるかな。この調子だとほとんどの所にはイーオスの兵が潜んでいるのは確実だ。それなのに、統括にされた君に情報が無いとなると。」
「船しか無いでしょうよ。聞くまでもない。」
俺はハレルヤと呟いていた。
フィッツは自分が情報屋で力仕事の担当では無いとぼやいた。
「いやいや、イーオスに押し付けられた部隊長様なんでしょう。君は。俺はミアとニーナの誘拐犯を追って船に乗り込む。君達はその応援をしてくれ。」
「はぁ。怠け者の将軍が動くと余計な仕事ばかりが増える!」
「いいから。さあ、アグライア侵略予定のエンバイルの船は沈めるぞ。」
フィッツは嫌そうに自分の胸に右手の拳を当てた。
「御意。」
「嫌味な奴。」
「うるさいよ!色ボケ大将!」




