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誘拐犯

 私は不運を呼ぶだけの女なのかもしれない。


 私の宝物を持って逃げたニーナを追って馬房に辿り着いて見れば、私達は男爵家に忍び込んでいた三人の男女に捕らわれたのである。


 私の父とベロニカと見ず知らずの男だ。


 ベロニカは隠密行動なのか、黒っぽいマントを頭からすっぽりと被っていた。

 ボスコは唸って闖入者に襲いかかろうとしたが、彼等は猟銃を持っていた。

 見ず知らずの男がボスコに向けた猟銃の筒を咄嗟に掴んだことで、ボスコが撃たれずに済んだが、私は後頭部をしたたかに殴られて気を失った。


 そうして気が付けば粗末な馬車のなかで、私は縛られていてニーナは私にしがみ付いている。

 ぐすぐすとニーナが泣いている所を見ると、もしかしたらボスコは私達を助けようとして撃たれて死んでしまったのだろうか。


「お姉さま良かったわ。ああ、目が開いた。」

「ニーナ。ごめんなさい。わたくしはいつもあなたを守れない。」

 ニーナはぎゅうと私にしがみ付き、ボスコが助けに来る、と囁いた。

 私もニーナに囁き返した。

「あの子は無事だったのね。」

「ええ。お姉さまを殴った男の腕に噛みついていたわよ。でも、私もお姉さまも捕まえられていたからボスコに命令したの。フォルス様を呼んで来いって。あの子ももう少しで撃ち殺されちゃうところだったし。」

「あなたは素晴らしいわ。」

 ボスコが生きているならば、絶対にフォルスが助けに来る。


「目が覚めたか。畜生、糞みたいな犬を連れていやがって。」

「あんたは優しすぎるんだから。有無を言わさず犬を撃ち殺しておけばよかったんだよ。ああ、可哀想にこんなに皮膚が裂けて。ああ、可哀想なランベール。」

「お前は本気でいい女だよ。あんな糞みたいなババアに囚人みたいな目に遭っててよ、なんて可哀想なんだ。」


 男の右手は布でぐるぐるに大巻きにされており、その布には赤い染みがどす黒く広がっていた。

 ボスコに右腕は使い物にならなくなるぐらいに噛み砕かれたのだろう。

 あの夜の男達にしたように。

 ベロニカは優しい手つきで男の怪我をした腕を撫でた。


「本当だよ。あのババア、あたしに一銭も金を渡しやがらない。あいつのバカ息子はあたしの親父の金で贅沢が出来たって言うのにさ。」


 馬車の中にはベロニカとボスコに噛まれた男、ランベールという名らしいが私達の見張り番で乗っていた。

 ということは、御者台には父がいるという事だろうか。

 私の疑問に答えるように、ランベールはいやらしい声をあげた。


「お前の親父もろくでもねぇな。娘を人質にして侯爵家から金を搾り取るつもりらしいぜ。」

「ねぇ、侯爵家から金を搾り取ったらさ、売春宿にでも売っちゃいましょうよ。あたしはさあ、こういう気取り返った貴婦人様が大嫌いなんだよ。何が、商家の娘とご一緒はできません、だ。あたしはねえ、あんた方と同じ学校にもいったんだよ。それなのに、商家の娘ってだけでご学友にもして貰えないばかりか、パーティだってあたしの名前で絶対に招待状は届かない。」


 私は階級というものがそんな歪さを持っているとは知らなかった。

 商家の娘だろうと結婚すれば伯爵夫人では無いのか?


「ふざけるなよ!マナーを知らない方とご一緒できませんときたもんだ。あのババアもジョゼリーンは連れて外出する癖に、あたしは家に閉じ込めるばっかりだ!親戚の家に行ったからって、罰としてあたしのカツラと外出着迄も燃やしてしまうなんて酷いじゃないか!ジョゼリーンは何のお咎めも無しなのにさ!」


 ベロニカがマントのフードを下ろして私に見せつけたが、暗い馬車の中でもベロニカの頭部には火傷があって髪がまばらに生えているだけなのがよくわかった。


「ほんっとうに可哀想だよな。ほんっとうに。あの馬鹿亭主がお前を突き飛ばしてのそれだものな。」

 ランベールはベロニカを抱き締めた。

「ああ、ランベール。あたしはあんたとこそ結婚したかった。あんたがあいつをぶち殺してくれた時はすっとしたよ。」


 ベロニカとランベールは私達の目の前で口づけという愛情行為をし始めたが、私とニーナは目の前の伯爵未亡人と愛人がフォルスの兄を殺害したと告白したのだと絶望を感じていた。


 秘密をここまで暴露できるという事は、私とニーナは絶対に逃がさないどころか、殺しても良いというくらいの人質なのだ、と。

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