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ミアの想い人

 ミアは簡単に俺との婚約破棄を受け入れた。


 恋した男の元に行けないと言い張ってくれた時にはほんの少し俺は嬉しく思ったが、それで彼女が俺を好きになってくれたわけでもない。


 俺は優しいだけの見守り人で、今は用無しになった男だ。


 明日にでも侯爵夫人のお仕着せの馬車が到着し、俺のミアとニーナはその馬車に揺られて首都に向かう。

 着いた先がマルグリットが住んでいた図書館の管理人室ではなく、アガート侯爵家の王宮みたいなタウンハウスで驚く事だろう。


 彼女達と過ごす時間はまだあるが、完全に失恋している俺は失恋相手と楽しく過ごせるほど心が強くない。

 そこで遠乗りでもして気分転換をしようと馬房に来たが、そこにはボスコに体を押し付けて啜り上げるニーナがいた。


「ニーナ。ボスコは侯爵家に一緒に連れて行っていいよ。あげる。」


 熊犬ボスコは目を見開き、ガガーンと音が聞こえる程の驚いた顔を俺に初めて見せ、俺は塞いでいた気持ちのほんの少しだけが晴れた。

 そしてニーナはボスコ移譲に喜ぶどころか、酷いと言ってさらに泣き出した。


「そんなに私達を追い出したかったのね!」


「何を言うの。もうどうしたの?ほらおいで。」


 親戚の子供によくやるように抱き上げようといたが、ニーナは俺の手から逃れるようにして体を背けた後はダンゴ虫のようにして丸まってしまった。

 そのせいでニーナが何かを抱えていたという事に気が付き、俺はそれが何なのか覗き込み、わお!それは見覚えのありすぎるものじゃないかと気が付いた。


「ニーナ、それは?」


「お、お姉さまの宝物。お姉さまはこれを届けて下さった人に恋をしたのですって。だ、だから、私がお姉さまから捨ててやるって奪ったの。」


「え?」


「でも、でも、捨てられない!だってフォルス様が従僕に命じてお姉さまに贈って下さったものでしょう!お姉さまを二年間守ったものでしょう!フォルス様!どうしてご自分でお姉さまに渡してくださらなかったの!」


「え?」


 俺は耳がおかしくなったのだろうか。


 ニーナの抱き締めているそれは、俺が二年前にミアに渡した俺手製の防具であるのは正しいが、ミアにお渡しした人も俺自身だったはずでは無いのか?


「あれ?ええと、ニーナ。お姉さまは他にその人についてなんて言っていた。」


 ニーナは大きく鼻を啜り上げると、俺を気丈にも睨みつけて来た。


「気の毒な従僕を首にしたら許しません事よ!お姉さまは叶わない恋だから忘れたっておっしゃってるもの。」


 俺は俺を首には出来ないが、俺は今すぐ自分の使い物にならない首を切り落としたい気持ちとなっていた。


 俺がミア達が逃げ出したあの夜に扮装などしていなければ、今頃の俺はミアと幸せな夫婦のベッドに転がっていたのではないのか?

 庭で素顔を見られた時に召使の振りなどしなければ良かったのではないのか?


「なんてことだ!君達を脅かさないように扮装していたのが仇になってしまった。俺はなんて大馬鹿野郎なんだ!」


「フォルス、様?」


「畜生!君は侯爵家に行く必要など無い!俺が今すぐミアと結婚する!」


 俺は馬房を飛び出すと、ミアがいるだろう場所を目掛けて駆けだしていた。

 しかし、ミアが使っていた俺の元部屋には彼女はおらず、俺は音楽室やら居間やらサンルームやらと屋敷内の部屋のドアをバンバンと開け続けた。

 しかし、彼女は見つからない。


 ミアはどこに行ったんだ!


 俺は踵を返すと再びニーナの元へと駆け出していた。


 ニーナは何と言っていた?


 ミアの宝物を捨ててやると奪ってきていたと言わなかったか?


「ああ、畜生!男爵家は金持ちで広すぎるんだよ!」


 俺は必死に走って馬房に辿り着いたが、そこには愛する人達の姿どころか俺の手製の防具しか残っていなかった。

 いや、猟銃を撃ち放った痕がある。


「ミア!ニーナ!」


 俺の叫び声に呼応するように、東の方角から聞き覚えのある犬の遠吠えが一回だけ聞こえた。


 俺は急いでネルソンに鞍を乗せると、その方角へととにかく馬を走らせた。

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