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二年前の出来事

 発端は俺の犬が馬鹿犬だった。


 それ一点だ。


 友人から猟犬にどうぞと譲られた仔犬は外見だけは可愛らしかったが、育つにつれて猟犬になりえないどころか、猟銃で撃ち殺したいような生き物になった。

 常に機嫌がよく愛嬌はあるが命令は聞かず、常に仔犬のように転がって遊び、そして、もしゃもしゃになった俺が主人だと分からず混乱して逃げたのだ。


「犬が主人がわからなくて逃げるって初めてだよ。」


「まことに。命令を聞かない犬も初めてですね。あなたの他の犬は全部まともでございますのに。」


 執事のリーブスは大きく溜息を吐いて、広間の暖炉の前で転がる二頭の犬を、さも犬の見本だろうという風に見やった。

 しかし俺は久しぶりに帰ってきた主人を適当に出迎えた後は、主人をほったらかしで暖炉前で寛ぐあれもどうなのかな、と思いながら馬鹿犬を追いかけるために玄関へと向かった。


「従僕を走らせますが。」


「いいよ。従僕じゃもっと捕まらないでしょう、あれは。」


「大きな犬の姿をした猫ですものね。」


「猫だったら猟はしてくれるだろうにね。」


 屋敷の目の前にある公園に逃げ込んだろうと駆けるとその通りで、俺の犬は黒づくめの侍女を押し倒したばかりの所だった。


「あの、馬鹿犬!」


 俺が犬へと駆け寄ると、侍女が見守っていた少女が叫んだ!


「お姉さま!」


 お姉さま?侍女ではないのか?

 驚きつつ、しかし、そこから続く姉妹の会話に笑わせられながら自分の犬から女性を助け出そうと俺の馬鹿犬の首輪を掴んで持ち上げた。


「ただのすけべえな馬鹿犬ですよ、お嬢さん。本当に申し訳ありません。」


 俺は言葉を失った。


 真っ黒な汚れた動く巨大毛布を剥がしたら、そこから宝物が出て来たのだ。


 明るいアッシュブラウンの髪はきらきらと艶やかに煌き、真っ白な肌は赤ん坊のようだ。そしてつるんとした卵型の可愛らしい顔には、美しいグレイブルーの宝石のような瞳が輝く。


 これは妖精の女王だ。


 俺の犬は虹の根元を掘るために逃げ出したのだ。


 雷に打たれたようになってしまった俺には言葉を話すなんて高尚な事も不可能となり、しかし、この美女をこのままにしてはおけないとの気ばかり焦った。


「お姉さま!雪男ですわ!雪男は大きな獣と一緒に現れると聞きました!」


 俺は彼女の妹のお陰で動き出せたと言ってよい。

 ただし、間抜け男は間抜けな言葉しか彼女に掛けることは出来ず、可愛らしい姉妹は俺の前から逃げ去っていった。

 俺は馬鹿犬を捕まえながら大笑いするしかなかったが、俺にはリーブスという有能な執事がいたのである。

 父の代から仕えていた彼は俺の父親ぐらいの年齢であるが、俺の脳みそよりも脳みそはよく動き、見識もおそらく俺より広いだろう。

 彼に侍女姿の姉と令嬢姿の妹の話をするや、彼女達が何者かすぐに教えてくれたのである。


「フラッゲルム伯爵家のご令嬢ですね。金が無いどころか領地も無いと噂の方々です。姉様あねさまの方がああやって侍女に身をやつして妹様を外に連れだしているようですね。賢い方ですよ。ああすれば召使いのいない家でも買い物ができます。」


「確かに。美しくて賢い、そしてユーモアがあって妹思い。最高だね。君はどう思う?君こそ俺に結婚を唆して来たでしょう。」


 リーブスは俺に父親のような笑顔を見せたが、口に出した言葉は辛辣だった。


「フラッゲルム伯爵家と縁続きになるのは反対です。あれが男を誘う手なのかもしれませんよ。あのフラッゲルム伯爵夫人の娘なのですから。」


 俺が惚れた少女の本当の姿を見極めてみると勇んで、その日のうちにフラッゲルム伯爵家に忍び込んだのは言うまでもない。

6/2 誤字報告をして下さりありがとうございます。

姉様はあねさまとリーブスは語っているので、あねさまとルビをふりました。

召使→召使いに修正いたしました。


また、誤字が多い中読んで下さる皆様には感謝しかありません。

いつもありがとうございます。

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