意思の元に二年
俺はやっとここまで来たと大きく息を吸った。
長かった。
伯爵家の三男でしか無いからと兵士になって、前線を駆け回ることはや十年。
その間に長男次男が続けて流行病と落馬で死んで俺が伯爵となり、軍では死にかけ数回を経験したからか少将にまで昇り詰めている。
ところが、その身分の為にか俺は恋した女性と結婚できない身の上だった。
力も金もないフラッゲルム伯爵家の娘では、金も名誉も有り余る俺にふさわしくないのだそうだ。
いや、俺は結婚市場の目玉商品なのだから、こっちこそ好きな相手を選べるだろうとも思うが、目玉商品だからこそ好き勝手に選んではいけないとのことだ。
そして俺の親族連中は俺がフラッゲルム伯爵家の娘に恋をしていると知るや勝手に婚約者を仕立てたが、婚約者様は戦地帰りの俺の姿に卒倒し、その日のうちに婚約破棄を申し出てくれた最高の女性だった。
そうか、もしゃもしゃになれば良いのだね。
俺はその日から戦地帰りでなくとも常にもしゃもしゃ男でいることにした。
するとそれ以後も結婚話は何度もあったが、相手の令嬢達がもしゃもしゃは嫌だと話は流れに流れ、二年目にしてようやく俺は結婚したくない男性トップテンに名を連ねる事が出来たのである。
俺は今年の社交界が始まる前にと、自分の成した功績を自分で褒めたたえながら、フラッゲルム伯爵家のドアを叩いた。
そして、そこの主人に娘との結婚を認めさせたのである。
そうだ。
婚姻を願い出たのではない。
彼女の父は娘に手をあげるろくでなしだ。
一日でも早く彼女を奪還しなければいけないではないか。
「結婚は一か月後で。準備は全てこちらでしてあります。彼女は身一つで来ればよい。それから、妹の方はわが伯爵家と縁続きになるのならばこのままではいけません。寄宿学校の手配をしてありますから、そこに入れてください。」
これで彼女と妹の身柄は安全な筈だ。
しかし、俺は失敗したのか、フラッゲルム伯爵は妹に関しては首を横に振った。
「あれには良縁など望んでいません。ミアが結婚するならば、私の身の回りの世話をする人間が必要だ。そうじゃないですか?」
俺はそうですね、と答えてフラッゲルム伯爵家を後にした。
下手に刺激して結婚話こそ流れてはいけない。