男爵夫人の応援条件
「ハハハハ、凄いね。さすがカウンター攻撃では右に出る者がいない将軍閣下様だ。五つと言って既に二つもクエストをクリアされていらっしゃたとは。」
「煩いよ。最後の持参金なんか、大金持ちの俺には不要な話だろ。三つ目の差配は全てリーブスがいるから問題ない。ってだけの話じゃないか。」
「二番目の教養だって、パーティでその他のご婦人方とおしゃべりが出来ればいいってぐらいだものね。古典文学やら哲学なんか唱えだしたらそれこそ大ごとだ。そこはここの怖い男爵夫人とおしゃべりしていれば自然に身に付くかな。うん。彼女は最高の教官だと思うから、これも心配ないね。」
俺は今更に男爵家をぐるりと見回し、あの大柄でうるさ型の叔父の姿が一ミリも見えない事に気が付いた。
「叔父がいないのに君は男爵家に泊めて貰っちゃったんだ。カミラに君は気に入られたんだね。」
久しぶりの俺にそっけなかったカミラとの再会を思い出し、カミラでさえフィッツの魅力にあらがえないのかと、カツラの長い前髪をかき上げた。
「何をママを取られた子供みたいな顔をしているかな。それじゃあ、四つ目のダンスと一番目の見栄え、に関しては僕が責任を持って対処してあげるよ。」
「ふざけるな。残った二つを婚約者の俺から全部奪うな。」
「じゃあ、ダンスの練習、だね。君はダンスは下手じゃない。ああ、でも、君は女性のドレスの見立て、出来るっけ?」
小馬鹿にしたようなフィッツに対して、俺も似たような目線を返してやった。
「俺が出来なくとも俺にはエグマリヌ男爵夫人様が付いている。それに、ミアと一緒にデザイン帳を見るという楽しい行為は君には譲れない。」
「採寸を覗ける権利を譲れない、でしょう。このすけべえ。」
「そ、そっそそんなことを考えているのは、君だけだよ!」
俺はさらっと否定したかったのに、二年前の寝間着姿のミアが服屋の試着室に立つという映像が脳みそに湧き出し、物凄く声が上ずってしまった。
「いやいや。お客様、胸が大きくていらっしゃる。そんな会話を小耳にはさみながら、店主のサービスで作られている隙間から愛する女性の下着姿を覗けるのを君は期待している筈だ。」
「や、やめてくれ!」
俺の脳みそに出現した映像はまだ動いているのだ。
うわ、ネグレジェをミアが脱ごうとしている!
「この馬鹿者が!恥を知りなさい!」
突然の女性の大声で俺の頭の中の映像はかき消され、俺は悪い所を見つかった子供のように、きゃう!っと飛び上がった。
俺を怒鳴りつけた男爵夫人はずかずかと大股で歩いて俺の前まで来た。
「あの、何か?」
「何かじゃ無いわよ!あんな大怪我をしている子をあんな応接間に閉じ込めておくなんて何を考えているの!」
あんな応接間に閉じ込めたのはあなたでは無いですか、俺はそういい返す事をグッと我慢して素直に頭を下げた。
「すいません。」
カミラがミアに肩入れをし始めているのだ!
この勢いに乗らないでどうするのだ。
「本当に呆れたわ!お医者にも見せていないそうね!何をやっているの!あの子はベッドに寝かせます。これからお医者も呼びますが、あなたは私が良いと言うまで面会謝絶です。」
「どうして!俺は婚約者ですよ!」
「婚約者だからこそベッドにいる未婚女性に近づけるわけにはいかないでしょうが!この馬鹿者!」
カミラは言いたい事を俺にぶつけるとすっきりしたのか、ふいっと方向転換するとツカツカと足音高く俺達の前から去っていった。
弱きを助ける男爵夫人は俺の目論見通りミアを守る人になってくれたようだが、盾として俺をまず最初に追い払いにかかるとは想定外だ。
「うわあ、素晴らしき母性。僕はカミラ様にメロメロだよ。」
「じゃあ、カミラを口説いてさ、親友の為にあの鬼の鉄壁を崩してきてくれ。」
「ふふん、親友?僕は君の恋敵、かもしれないよ!」
俺は悪友の肩に自分の肩を打ち付けた。




