火事場見学が好きな男
俺は急に現れたフィッツに嬉しさを感じるよりも自分の身の上の面倒の方を考えてしまい、再会を喜ぶよりもうんざりした。
「招集命令か?」
「いいや。僕もお遊び。君に贈り忘れた贈り物を届けに来たら、ほら、あの怖い人がごろつきを追い出している所じゃない?加勢してやって、君の居場所を聞いて、楽しそうだからやって来た。さすがだね。リーブスさんが言った通り、君はまっすぐに自分家に帰らずに叔母様の家に寄っている。」
フィッツは俺達を追い越して、先に男爵家を訪問するとそのまま図々しく逗留していたらしい。
俺の叔父であるイーオス・エグマリヌ男爵はアルマトゥーラ家の五男坊でしかなかったが、一念発起して商船を手に入れて商会を立ち上げ、今や大富豪で時には国の為に海賊になるという海の男である。
戦争中の敵国の船を襲って荷物などを奪う海賊行為は、敵国の補給を分断する軍事行為とみなされて国から奨励されているのだ。
エグマリヌ男爵位はその功績で自分で手に入れた物であり、そんな先見の明がある男は新しいものや珍しいものが大好きだ。
フィッツという男だったら、彼は初対面でも喜んで迎え入れたことだろう。
「君が来るんだったら真っ直ぐ自宅でも良かったかな。君を兄嫁達の結婚相手として紹介してやれそうだ。」
「それは断るよ。僕はあの美女がいい。あの怪我は噂の父親によるものか?小さい方も可哀想な頭になっている。よくもあの男を生かしておくものだ。」
俺は俺の結婚話を情報通の男に語るのでは無かったと、自分の浅はかさに腹の中で舌打ちをした。
「ほんとーにかわいいよ。ここを追い出されても、こんなおいしいお菓子を食べられた私達は後悔などしないわ!今どきあんな純粋な女の子達はいない。ああ、うれしい。徹夜で首都から馬を走らせたかいがあった。僕は天使に出会えた。僕の花嫁として僕の領地に連れて帰ろう。まる。」
「俺の花嫁で婚約者だ。君はさっさと君の領地へ帰れ。」
「ひどいな。結婚の為に髭も剃って髪も整えた男が、なぜかまだもしゃもしゃ君なんだよ。理由を聞くまで帰れない。」
戦場で情報収集に動いていた戦友は知りたい事を知るまでしつこい男で、だからこそ俺達は生き残れたのだが、俺はそれ程彼には感謝していない。
戦場から日常に戻れば、フィッツは俺にボスコをくれた張本人だと思い出すからである。
「本当に帰るなら教えるが、ついでにボスコも連れて帰ってくれ。猟犬にならないじゃないか、大嘘つき。」
「そっか。猟犬にならなかったか。あの子の父親は川に飛び込んでマスを捕まえるのが上手いし、お母さんは羊を追いかけるのが上手いから、もしかしたらって僕は思ったんだけどね。」
「それじゃあ、最初から猟犬のりの字もない雑種犬じゃないか!」
「え!マスを捕るんだよ。ざっばーんばっしゃーん、お父さんやりましたよってね。僕は静かに釣りをしたいのにね。」
俺はフィッツが嫌がらせでなく自分の犬の落とし胤を誰かに押し付けたかっただけだと理解した。
確かに、ボスコは二匹は飼えない。
「君の領地も馬鹿犬で大変なんだな。」
「うん。何もない時の馬鹿犬状態には慣れたというか諦めた。あの子達は侵入者や強盗に関しては物凄いチームワークで襲いかかってくれるしね。うちは海を挟んだら敵国エンバイルでしょう。勝手に領地に入って欲しくないからねぇ。」
俺はミアを襲った暴漢二名のぼろ雑巾姿を思い出し、フィッツは間抜け犬を製作していたのではなく、地獄の犬軍団を作り上げていたのだと納得した。
「やばい犬を寄こしやがって。ブリーダー様に聞くけど、ボスコが命令を聞くようにするにはどうすればいい?」
「それは無理だよ。君自身が主人の権限をリーブス様に渡しているじゃないか。あの素晴らしい二匹の猟犬は主人をリーブスだと思っているじゃない。だったら、ボスコも、ねえ。」
ボスコが命令を聞かないのは主人と認められていないだけだと言われた俺は歯噛みをし、フィッツをさっさと追い返すべく自分がもしゃもしゃの訳を教えた。
「ハハハ、そりゃ大変だ。でもそうだね。彼女は僕に脅えたね。この僕を見てすごーく不安そうな顔をした子達は初めてだ。うん、僕が口説くにしても君が最初に手ほどきをした方が良いかもね。協力するよ。」
「いらないよ。最後に奪うの前提な男はいらないって。それにね、俺とミアはカミラに認めてもらうために条件を克服しなきゃなんだから、帰れ!」
フィッツは両目を輝かせてうわ言にように口走った。
「協力するよ、いや、協力したい。」
5/14 フラッゲルム家→アルマトゥーラ家 イーオス・エグマリヌ男爵はアルマトゥーラ家の五男坊です!




