五つの条件
カミラは反対の理由と言って右手を上げた。
五本指が立っているという事は、カミラがこれから口にする五つの事をミアがクリアできれば、カミラは俺達の結婚を祝福するだろうという事だ。
俺は待ってましたとばかりに声をあげた!
「どうぞ!お願いします!カミラさま!」
「よし、一つ目!太り過ぎです!社交界では女性の体型は大事です。田舎の地主夫人ぐらいだったら許されますが、伯爵夫人として社交界に出るには太っている事は致命的です。」
「一応影から覗いてはいたのですね!覗き穴を作っていただなんて、さすがカミラ様です。綺麗でしたでしょう、ミアは。」
「――案内した召使から聞いただけです!人聞きの悪い!覗き穴ですって!失礼な!ぶくぶく太り過ぎだと案内した者が教えてくれたのよ。」
「ぶくぶく、だって?ああ?」
俺は思わずとっても低い声が出た。
戦地で敵兵を脅す時の声だ。
「フォルス。」
「あ、ああ。すいません。――でも、そんなに太っていました?可愛い顔ですよ。」
「あなたは顔しか見ていないの?女性には顔しか求めない人なの?」
小馬鹿にしたようにカミラは聞いてきた。
「女性は補正下着を着るじゃないですか。この俺が見たままを信用するわけ無いでしょう。」
と、補正下着を確実に着ている人に答えるべきではないだろう。
俺は笑顔だけで誤魔化した。
「まあね、男の人はふくよかな方が、特に、胸さえ大きければ良いって人も多くいらっしゃいますからね!」
ミアは確かに胴体は太目だが、胸のあたりも大きく膨らんでいた。
だが断じて、いや、胸が大きくて良かったと思ったが、俺は顔とそこだけでミアに惚れたのではない!
「お、俺は顔だけ見てました!ミアの全部が好ましいと思っているだけです!た、体型など、ど、どう、どうでも良いのです!」
訂正せねばと勢い込んだが、結局は図星を指されて慌てる男みたいな反論しか出来なかった。
あ、カミラは俺を鼻で笑いやがった。
「では、二つ目。」
「流してくださって感謝します。」
「お黙りなさい。いいですか、二つ目は教養です。家庭の事情で学校に通えなかった事も知っております。ですが、貴族の娘として一つも楽器が扱えないというのはどうなの?娘が生まれたら音楽会は必ずどの家でも開催するものなのよ。」
「俺はその音楽会が嫌いなので構いません。大体、へったくそなガキの、ああ失礼、ご子息やご令嬢のピアノやバイオリンを延々と聞くという拷問では無いですか。あれは。俺は友人達にそんな苦行を与えたくありませんから。」
「そういえばあなたもバイオリンが弾けなかったわね。」
「カミラさま。三つ目をお願いします。」
「……、三つ目。家の差配が出来ないでしょう。伯爵家ともなれば召使の数は膨大だわ、そして、パーティだって開かなければいけない。フラッゲルム家はパーティを開いたという噂も、召使を募集しているという噂も聞いた事が無くてよ。」
どうだ!という風にカミラは俺をねめつけた。
「すごいです!二年前にミアと結婚したいと家族に言ってあっただけありますね。かなりフラッゲルム伯爵家についてお調べになられたのだと、私は感激さえもしています。」
「お黙りなさい。これは重要な話なのよ。」
「この三つ目に関しては大丈夫です。と、言いますか、出来る方が勝手に差配しようとしたらリーブスに消されます。ですから、この三つ目は考えるまでもない事でお願いします。」
「――あなた、リーブスが働けなくなったらどうするの?彼はいい年よ。」
「あ。――どうしましょう。」
「やっぱり、三つ目は必要、じゃない?」
「うーん。リーブスのような執事だったら、ええ、やっぱり不要ですよ。」
「それなら尚更に彼の後任は考えておかないと。あれほどの人は一朝一夕で見つかるわけ無いのよ。」
「うーん。」
俺達はいつの間にかリーブスの後任問題の方に頭が行ってしまっていた。