ナツ君の変わっていった日常。
朝。足と腕が重い。筋肉痛だ。
昨日はあのあと結局ナツキヨのサイクリングに走りで付き合わされた。
部屋を出ていつものように廊下を歩き階段を降りる。きつい。足を一歩一歩前に進めるたびに太ももの筋肉が引きちぎられる感覚。
朝ごはんを食べるのに箸を持ち上げるのさえきつい。
昨日は途中でついていけなくなり迷いながら一人で走り家を探した。
やはり部活をやってない帰宅部生徒には自転車と同じ早さで走るのは無理だった。
家に帰るとナツキヨが心配そうに待っていてくれたが、すぐにあの怖い夏清さんで、ついていけなかったことにたいして、自分を心配させたことにたいして説教を受けた。
重い足を折り曲げて正座をするのは辛かった。
朝の身支度を終わらせ学校へ向かう。
駅につくと改札には例の電車のあの子がいた。
二人で改札をくぐりホームへ向かう。
電車を待ちきた電車に二人で乗る。
いつも通りの時間の電車いつも通りの光景。 いつも通り例の子が、、隣にいる。
このとき初めて自分に彼女ができてその相手が電車の娘であることを自覚した。
とくに二人の間では会話はない。二人とも正面を向き電車の窓から流れる景色をながめている。
俺の通っている高校と天使女子とでは最寄駅が一つ違うだけで、アマジョの最寄りが一つ奥になる。
会話もないまま俺はナツキヨを残して電車を降りるナツキヨの方もとくに反応はない。
いつものように一人学校、、いや、相沢がいた。
どうやら俺とナツキヨが一緒に電車に乗り込むところから見てたらしい。
「あの娘誰??可愛くね??アマジョの制服だったよね??お前の彼女??お前にも彼女ができたの??」
無視した。
「今度話させてよ、ね??たのむ!!」
隣で両手をあわせる相沢。
やめておけ、あいつのなかではお前はくそ認定を受けている。きっと痛い目を見るぞ。
と心のなかで語りかけながら俺は相沢に意味ありげに微笑む。
学校への道中、相沢は俺にたいして自慢気に昨日あったらしい小手川とのデートについて話してくる。
そう、こいつには彼女がいる、のに人の彼女にも手を出そうとしてくる。こいつはそういう人間だ。
俺は無視したまま学校へ向かう。
学校。
ここが俺たちの通う高校だ。
教室に入り席につく、俺の席は窓側から二列目にある。
いつものように、鞄の中のものを引き出しにしまい鞄を横にかけ、相沢の席へと歩いていく。
相沢と話していると相沢の斜め前の席の住野が俺に話しかけてきた。
先週までは相変わらずいちゃつきやがって、と思っていたが。
いざ別れてるって知ってから話してしてるとたしかに、相沢住野での会話はなく、二人が俺に話しかけ俺がそれに答えているだけだった。
先週までにそれに気がついてたらきっと俺は、ざまぁみろ、と思って喜んだだろう。
だが俺にも彼女ができてから気がつくとただただ気まずく感じるだけだった。
教室に先生が入ってきた、相変わらすニコニコニコニコしている。
生徒は皆自分の席につく。
先生は、教壇の前にたちいつものあれだ。
「えぇ、、正月のこたつと掛けまして、最終回じゃない物語とときます。」
生徒は誰一人無表情なのに先生はにこにこしながら
「その心は、、、どちらも、、、」
生徒は無表情。先生はニコニコ。
「ミカン!!でしょう!!!、、、、うまい!!!うますぎるぞ先生!!!ハハハ」
理解ができない。無反応の生徒のなか一人ではしゃぎ自分で誉める先生もそうだが、なんで正月こたつがミカンなのが解らない。
たしかに、正月のこたつの上にあるものがミカンっていうのは解らなくもない。
だが正月のこたつはミカンじゃない。相変わらずのつまらなさだ。
一人で笑いながらわざとらしく手を叩く先生を生徒は無表情で眺める。
耐えられなくなったのか先生は一度無表情に戻りまたニッコリと笑顔を作る。
きっと次はあの台詞だろう。皆そう思った。
「ついに!!七日後は!!!修学旅行ですね!!!、、いやぁー先生楽しみだなぁ!!!楽しみすぎて先生、修学旅行のおやつ全部食べちゃいましたよぉハハハ」
さすがに聞き飽きた。2週間前からつまらない謎かけの次に来るのは、何日後は修学旅行ですね!!!からのこれだ。
修学旅行におやつ。しおりにはそんな持ち物かいてなかった。
あったとてもまた買えばいいし、毎日のように食べているのならそれは修学旅行のではなくただのおやつだ。
そんなことはおいておいて、そう。
ちょうど一週間後は修学旅行だ。
三泊四日で京都大阪へと行く。
そして怖いことにその班が、俺、相沢、小手川、住野。ときた。
早くも胃がきりきりする。
俺はもう住野小手川については、とくになにも感じないのだか、住野相沢小手川娘の三人について考えると胃が痛む。
そんな俺を無視して、先生は相変わらず笑いながら、皆は食べちゃいけませんよ!!!だとか、東京駅集合ですよ!!!更には寝坊しないでくださいね!!などと話している。
食べないしそもそも持っていかない、駅集合っていうのは大切かもしれないがもう聞き飽きるほど聞いたから間違いようがない。寝坊はその日にならないと判らない。
そんなことを思いながら生徒は変わらず無表情で先生を眺め先生は笑い続ける。
そんな先生が一度無表情になる。生徒は聞き逃さまい重心を前にかたむける。
「今日は売店休みです。」
これが今日の注意事項か、初めて生徒は表情を変える。
先生はまた笑いだし。
「ハハハ、以上。ハハハハハハ」
笑いながら教室を出て行く。一週間後は修学旅行だ。
家に帰る。
今日は休み時間のたびに相沢にナツキヨと会話させろと、アマジョの女子紹介しろとせがまれ無視し通した。
やはりアマジョに知り合いがいるとこういうことが起こるのかと、アマジョのブランドの高さに驚いたが、俺は遠くの席から相沢を睨んでいる小手川と何度も目が合った。
俺は微笑み小手川も微笑む。怖い顔だった。
母さんやナツキヨ以外の女子もこんな顔が出来る事を知った。
そのたびに俺は相沢に、見られていると、小手川に見られていると合図を送ったが相沢は気づかなかった。
最終的に昼休み、俺は相沢の顔を無理矢理に小手川の方へと回した。
相沢の表情が変わり小手川は廊下に出ろ!と相沢に合図を出した。
数分後反省しきった相沢の顔があり、それ以降は一度もナツキヨのことは話さなかった。
なるほど、小手川はこうやって一人一人相沢がじょしにてを出せなくしていくのか、と感心した。
帰りはナツキヨと同じ電車に乗る約束をし俺はその電車に乗った。
約束通りナツキヨがいた。
ナツキヨも帰宅部。
男勝りだったナツキヨが、女子高で帰宅部っていうのはなんかもったいない気もするが俺も帰宅部だからなにも言えない。
やはり電車のなかでは会話はなく、最寄り駅の改札、別れ際ですらなんの挨拶もなく別れた。
彼女と付き合うというのはこういうことなのだろうか、
家についたのは午後五時頃、いつも通りアニメを見て、いつも通り漫画を読み、いつも通り風呂に入り、いつも通りご飯を食べ、いつも通り父さんが母さんに責められてるのを眺め、いつも通り寝る。
ナツキヨと何かやったというのはなかった。
筋肉痛がきつい。一週間後は修学旅行。
とくに変わったことをしなかった今日一日、少しだけ変わっていた今日一日。