マニュアル通りでナツ君の春
考えていた春の訪れかたではないけど、俺の春が確実に近づいている。
ここで頭をよぎったのが先週末父親に渡された、これでお父さんはお母さんから告白させた!彼女を作るための手のひらサイズの秘伝の書シリーズ、だ。
三冊あってそれぞれ
其の壱。≪連絡先交換してから普段会話できるようになる方法≫
其の弐。≪普段会話できる仲から二人っきり出会えるようになる方法≫
そして、
其の参≪幼馴染があなたの好きな娘が自分だと明かしてきて時、彼女から告白させる方法≫
ときた。
これのせいで今日何が起こるかわかった。
ほんとに、こんなはずじゃ、、なかったのに。
つまりこれは其の参を使わないとナツキヨが機嫌悪くなるってことだ。
けど、ちょっと慌てさせてやろう。
「えっと、、マニュアル、、」
『声に出すなーーーー!!!!』
やっぱり遮られた、電話越しでは小さな声で俺に陰口をいっている可愛いナツキヨがいる。
えっと、、マニュアル壱。
≪幼馴染が明かしてきたら一度疑って、怒らしてみましょう≫
そうだなあいつの男勝りだった過去を、、
「俺がお前に欲情?ないな、俺が好きなのは女の子っぽい女子だぞ、お前中学じゃ男子制服だったじゃねぇかよ、、嘘はつかない方がいいぞ」
こんなもんか。
『あんだどぉ??、、、まぁそんなこと言ってるナツ君は女の子っぽいはおろか男子っぽい女子でもなく、男子よりも強かった私で欲情するんですねぇ、、ざまぁですよ。』
ナツキヨは最初荒れかけたけどすぐ収まった。
マニュアル弐には、
≪一回の挑発で怒りかけたけどすぐに素に戻ったときはもう一度怒らせてみましょう≫
と記されてた。
なるほど律儀だな。
毎年こいつの誕生日に欲しいものと、やってもらいたい渡し方リストを渡されて実行しているのを思い出した。
それはもっとひどいもので、マニュアルに記されている通りの台詞で進めなければならない。
何年前か、最後の最後で全くちがうもの渡したら俺の自転車壊されたなあれは女の子ではなかったなぁははは。
じゃぁそうだな、
「言っとくがな!!電車の娘は今のお前の百倍は女の子してたからな!!今の百倍って、どぉ頑張ったってお前には無理だろぉ!!」
女の子であろうとしてるナツキヨを否定しいてるのだから怒ってくれるだろう。
『出来るわぁ!!てか出来とるわぁ!!!わかってんのか??あ?あれは私だって言ってんだよ!!あ?』
『感想ないのか、あ?さっきから反応もせんでよぉ!!可愛いの一つもねぇのか!!』
たしかにマニュアル参には、
≪あら大変彼女が起こっちゃった!感想を言ってなだめてみよう!≫
とはあるが、電話越しで『可愛いって言えよ』を連呼してるあの方はがちで怖いんですが演技ですよね?
なだめる?可愛いって言うのがなだめることなのか?
目の前を野良犬が通った
「どぉーどぉー、、」
『はぁ???私は犬か??野良犬か??あ?』
『可愛いの一つも言えないのか?感想言えって言ってんだよ!!!』
しまった、、野良犬となだめるの組み合わでついつい口に出してしまった頭の中だけにするつもりが、、
耳元では電話越しの『はやく』の怖い連呼が聞こえてる
感想ね、、、正直、、
「お前そんな胸でかくなかったよな、、」
頭のなかでストッパーの外れる音がした。
『あ??』
「まさか、、お前、高校生なのにパットじゃ満足せず風船膨らましていれてんの?、、はずブチ!、、、ぷー、ぷー、ぷー」
電話が切れた、ふざけすぎた。
途中からマニュアル関係なくからかいたくなっちまったぁぁぁぁ!!
ヤバイ来るぞ。
猛スピードで自転車が、、あれ?、俺のだ。
キッギギギギーーーーーーー、ガシャ
目の前に俺の自転車を頭上の高さまで持ち上げる電車のあの娘が現れた。
「いやまじ、自転車は痛いって、、まずいって、それは、、」
ガッッシャーーーーーーン!!!、
「あっっぶな、、、」
ガッッシャーーーーーーン!!!
遠くへ投げ捨てられる俺の自転車、、、色んなとこがへこんでる。
『避けたな?自転車、、二回も、、』
「え?、、、二回?」
『自転車、、二回、、避けたよな?』
「あれ?投げ捨てたんじゃ、、」
バチーーーーーン!!
『避けてんじゃねぇーーーー!!』
ビンタの音さえも怒号にかき消される。
さすがに足がよろめく。
バチーーーーン!!!
『可愛いって言うところだろうが!!!』
バチーーーーン!!!
『さらし巻いてただけじゃーーー!!!』
気づけば俺は膝に手をついて俯いていた。
「すみませんでした、、ほんとに、ふざけすぎました。すみませんでした。」
必死で謝るしかない。
七発くらい叩かれたかな、何かと理由をつけられビンタが飛んできた。
ほんとにマニュアル通りやっとくべきだった。
俯く俺に手を差し出すナツキヨ。
俺は膝から手を離しナツキヨの顔を見上げた。
ナツキヨは微笑んでいた、、その微笑みは綺麗で静かで今まで見たことがないほど女の子の夏清の顔だ。
俺はその顔に見とれながら彼女の手をとる。
『好き』
今までに聞いたどの女子の声よりも一番透き通り優しく静かな声。
草木が揺れて擦れる音、風の音、遠くで走る車の音、電車の音、全ての音が夏清の声に道を譲ったかのように俺の耳は夏清の言葉だけを、その音だけを掴んでいた。
そして夏清の微笑みと声は俺の心の中に、満開の、どんなに強い風が吹いても花びらが散りそうにないほど力強く綺麗な桜並木を描いた。
そう、俺に春が来た。
俺が想像したどの春よりもきっと満足のできる春だ。
「俺も」
自然と俺の口が喋った。
夏清はニッコリと可愛い女の子の顔で微笑む。
ペチン!
「あれ?、、夏清さん?、、怒って、、る?」
『マニュアル、、ど!、お!、り!、、、でしたよね?』
彼女の声は、ついさっきまで俺を魅了してたものではなく、何かを間違って口に出したら殺されそうとさえ感じる怖いものとなり、彼女の微笑みは消えていた。