ナツキヨ
あの日、僕はあの場所で気を失った。
誰かの腕のなかで、誰かに名前を呼ばれながら、最後に見たのは誰かの顔だった。
最近どこからか自分に話しかけてくる人がいるような気がする。
その声は聴いたことのないような、あるような声で、、ほら、今だって、、、
聴こえない?おかしいな。
今たしかに誰かが、あなたはいきてますか?私は生きてますよー、って独り、話しかけてくる声が聴こえたんだ。
とても優しい声だった。
と言っても、こんな夜遅く、なにもない広場だから周りを見回せば誰もいないことはわかる。
けど、、うん、そうだな。
「こんな時間に呼び出したあいつがいないってのはどうゆうことだ!!!!」
『いるよ』
そういえばこいつの声ってどこか、、まぁいいや。
「おせぇよ、けっこう待った、、、、ずぉ!??」
目の前には髪型と顔のパーツ以外見たことの無い美少女がそこにいた。
「誰ですか?」
『、、ナツキヨ。』
「たまとった?」
バチーーーーーーン!!!
ビンタの痛みと共に聞き慣れた太い声が耳を通り抜ける。
『ドォッデナイワァ!!!』
「とったよね?」
バチン!!バチン!!バチーーーン!!
『ドォッデナい、、ぅっ、ぅっ、とって、、ぅっ、無いもんぅっ。』
泣かせちゃったか、、やり過ぎたな。
でも、、なにこのかわいさ、、
男勝りのショートの涙目俯きは神だ。
でもやっぱりナツキヨの怒る顔は男の子ぽい。
ナツキヨは漢字で書くと夏清で、かすみと読む。
そこで気がつけと言いたくなるのが一般的だ。
だが、そもそも男子としての生活をしたがったのはナツキヨだった。
小学生のときは俺と同じ服を着て、同じズボンをはいていて、黒のランドセルで、よく双子に間違われたが別に近所ですらない。
よく一緒にこの広場でボール追っかけていたせいで二人とも真っ黒に日焼けしていた。
、、真っ黒と言うほどではなかったか。
女子にはナツキヨ君とあだ名で呼ばれ、給食も俺以上に食べていた。
男子とは喧嘩して俺以外の男子をよく泣かせていた。
俺以外ってのは大事だ。
そんなナツキヨが夏祭りに一回だげ浴衣で来て俺が笑ったことがあった。
ナツキヨの母さん困ってたな。
ひどいことした。。。
やっぱり中学でも日焼けはしてて、休日は俺と同じ男用の服を着て遠出した。
あれはデートでよかったのか?男女がキスをするというあのデートだったのか?キスしてないけど、もったいなかった気が、、ちょっとお顔を拝見、、チラッ
『もしもーし、、何か反応とか無いの?』
もったいなかったなぁ。
あいつのショート可愛いいし顔は整ってるし。
据え膳食わぬは男の恥と言うけど、もしかしたら、もしかしたら俺とナツキヨの関係ならキスどころか、、、と後悔する俺は無視しておこう。
なにより、ナツキヨは中学で男子生徒の制服を着ていた。
だから遠くから見れば一人の男子生徒に見えた。
胸なかったし。
「仮にね、お前が女子だとすると、中二のときに渋谷でお兄さんたちに声かけられたのは、喧嘩売られてたんじゃなくて?」
『ナンパだよね、うん。』
「てことは、中三のときのアキバで変なおじさんにメイド服見せられてたのは?」
『わからない』
「あ、、そぅ。」
『どぅ?驚いた???』
まさかナツキヨは俺が本気でお前を男だと思ってたと思うのか?
たしかに遠くから見れば、一人の男子生徒に見えたかもしれない。けど、隣を歩けば違うことはわかる。
アキバの件は俺にもあれが何を意味するのわからなかったが、渋谷のあれがナンパだということは判った。ただからかっただけだ。
そんなナツキヨが俺の前で改まって女の子らしい格好をするのはあの夏祭り以来。
外灯に照らされたナツキヨの顔はとても静かで、普通ならドキドキする。
俺もドキドキする、はずだった。
先週末あれを渡されなければ。