第二話『大事なもの』
あの日以来、私は人間としてのなにか大事なものを
完全になくしてしまった。
そんな時、実家近くの病院から電話があった。
それは母が薬を大量に飲んで自殺を図ったというものだった。
幸い無事だったが
兄も仕事で母に四六時中かまっていられるわけではないので
母を名古屋に呼んだ。
そうこうしていると父も仕事をやめ
子供たちの面倒をみるからという約束で家に住むことになった。
私は一気に両親と子供たちを養わなければいけなくなった。
そして、今更になってきづいたこと。
母は重度のうつ病でそれをまぎらわすために
買い物をし借金をたくさんつくってそれを兄が肩代わりしていたこと
だから兄には頼れないことをきいた。
今まで自分のことばかりで
兄にも申し訳なかったので少しずつ兄にもお金を送るようになった。
でもそんな生活をしていると
やはり子供たちとの時間はなくなり
それどころか毎日休みもなく働いている自分がなんのために存在しているのか
わからなくなってきていた。
そんな時バイト先の友達から
聞いたバイト。
朝から夕方、子供たちが保育園にいってる時間だけで
1日5万は稼げる仕事。
それで家族が楽になる仕事。
それで自分もこの苦痛から解放される仕事。
それが風俗だった。
家族には心配かけたくなかったので
内緒で働いた。
2年ほど働いたある日
客に本番強要され、力では到底かなわない私は客の子供を妊娠してしまった。
おろすしかなかった。
両親にはもちろん言えなかった。
お店側が手術費用を貸してくれた。
きっとお腹の子はもうこんな仕事やめてってそういってくれてる。そう思った。
だからお店に返すその分だけ働いたらまた普通の仕事につこうそう思っていた。
両親には、お給料がいい飲み屋さんと話していた。
もう私もそろそろ普通の仕事してキャリア積んでかないと、と話をした。
両親はこういった。
「・・・辞めるのは構わないけど生活はどうするの?」
「もう少し頑張ってみなよ」
…そうだよね。
なにもしなくたって1日に5万、多いときではそれ以上にもらっていた。
両親はそんな楽から抜け出せずにいたのだ。
私は、働くしかなかった。
そして今・・・
----------ガタンガタン
「次は~名古屋駅~名古屋駅~お降りの方は~・・・」
また、同じ日々が始まる。
私であって私じゃない日。
私はなんのために生きているんだろう。
私にお金がなかったら誰からも愛されることはないんだろうな。
毎日そんなことを思って生きている。
悲しくても涙を流すことすらなくなって
過去を振り返れば愛されなかった記憶だけがよみがえる。
でも今は、違う。
仮にお金のために私に笑いかけているんだとしても
両親が前みたいに仲良く笑ってくれれば
またなにも考えずにいた純粋だった子供の頃に戻れる気がして。
今はそれだけしかできなかった。