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怪物剣士と魔術師のフローラ  作者: 記角麒麟
第一章 魔術師と護衛
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五話

 盗賊を見事退けた(?)二人は、湿った地面を歩きながら、フローラが荷物を下ろした木の根本まで移動した。

 神人は、前の地面に手頃なサイズの石を並べると、その中に比較的濡れていない落ち葉を敷いて、木枝を立てた。


「何してるんだ?」


「火をつけようと思ってね」


 そう言って、ブレザーのポケットからマッチ箱を取り出した。

 だが。


「う、濡れてるし……。これ着くかな?」


 呟きながら、一本取り出して磨ってみる。


「それは?」


「マッチだよ。こうやって擦ると、火がつく道具なんだけど……」


 着かない。

 おそらく、川に飛び込んだんだ時に濡れたのだろう。

 しかし、そう考えると矛盾するところがある。マッチは濡れているのに、彼の体は濡れていないのだ。ブレザーもズボンも、あとワイシャツも。


「それは、いつも持ち歩いているのか?」


「まぁね。外に出るときは大概」


「ふーん」


 フローラはそんな様子の神人を観察する。


(吾輩が直接着けたほうが早いな)


 彼女はそう判断すると、胸元のペンダントを掲げて、神人が立てた木の枝に祝詞を唱えた。


『Fira』

《火よ》


 すると、ボッと音を立てて、薪の中に火が灯った。その火は、段々と薪に引火して、次第にパチパチと音を立て始めた。


 その音に気がついて神人が顔を上げると、目を丸くしてその焚き火を眺めた。


「魔法……?」


「違う、魔術だ」


 変なこだわりだな。魔法も魔術も同じじゃないか。神人がそう返すと、フローラは難しい顔をして、神人に魔法と魔術の違いを話した。


 曰く。


 魔法とは、精霊や妖精と呼ばれる存在を介して、己の意思と、その存在の意識によって生ぜられる魔力を以て、物理的な改変を行う事をいい、対して魔術とは、己の意識と意思力を以て魔力と為し、これを用いて物理的な改変を行う事を言うらしい。


 魔法は精霊や妖精とよばれる存在と契約を結ぶか、その場にいるその存在に、一時的に力を貸してもらう事でしか発動できない。

 契約するのも簡単ではなく、精霊ごとに条件を求めてきたりもする。

 複数の精霊や妖精と契約を結ぶことも難しいし、契約すれば一生結婚できなくなったりもする。

 妖精たちが嫉妬して、それを殺してしまうからだ。

 複数の精霊や妖精たちと契約する場合も同じである。

 彼らにとって、契約とは結婚と同じ意味だからだ。

 故に、一時的に力を貸してもらうことも難しいのである。


 一方で魔術は、人単体でそれを起こすことは難しい。

 なぜと説明するのは難しい。

 まぁ、簡単に言うならば、人には魔術を使うための仕掛けが必要だから、というところだろう。


 例えば、箱の中に自由に動く電子と、猫、そして、その自由な電子がぶつかると、青酸ガスを噴出する装置を入れて、蓋をしたとしよう。

 この時、箱の中にいる猫の生死は、誰かが中を覗くまで判明しない。

 これは、逆に言えば、誰かが箱の中を観測するまでは、この中の猫は、生きてもいるし、死んでもいるという、いわば重ね合わせの状態となる。

 そして、この重ね合わせの状態は、誰かが観測することによって、その生死はどちらか片方に収束されるのである。

 魔術とは、この自由電子の動きを制御するための仕掛けを用いることで、結果を望む状態に収束させる事を言うのだ。


 つまり、魔術でマクロな変化を起こすには、仕掛けが必要なのである。


「なるほど、わからん」


 神人は話を聞いている間に設置を終えた竿に鍋を吊るすと、フローラに水を鍋に注いでもらった。


「仕方ない。吾輩は天才だからな!」


 腰に手を当てて、無い胸を張るフローラ。


 ギュルルルル。


「……///」


 どうやらお腹も限界らしい。

 神人はそんな彼女に笑みを向けると、ここにやってくる途中で採取した茸を、フローラの解毒の魔術で綺麗にしてから、手で裂いて鍋の中へと投げ込んでいく。


 採取した茸が食べられるかどうかは分からないが、フローラ曰く、解毒をかければ毒かどうかはすぐに見分けられるので大丈夫だという。

 実際、途中で見つけたドクツルタケに解毒をかけてもらうと、シナシナと干からびていき、最終的には消滅してしまった。

 どういう原理かはいまいちよくわからないが、毒が強ければ強いほど、見た目に現れる効果は顕著なのだという。


「具は茸だけで、それ以外何もないけど……」


 ネズミとかそういった小動物がいれば良かったけど、居ないものは仕方ない。

 え、ネズミ食べるの?と思った人居ると思うけど、まあ、解毒かければ問題ないよね。

 え、そういう話?

 うん、今の状況、そんなこと言っていられないし。


 フローラは礼を言うと、スプーンを取り出して、スープに口をつけた。


 神人は、ニコニコと微笑みながら、そんな様子の彼女を見つめる。


「……茸だけなのに、美味い」


 暫くすると、フローラはポツリとそう溢した。


 神人はその言葉に、自分の耳を疑った。

 いや、そんな筈はない。

 だってキノコだけなんだぞ?そりゃ、キノコが美味しいって言うならそうかもしれないが、だけどキノコだぞ?

 せめて塩コショウくらいないと、キノコと水だけのスープが美味しいはずがない。


 神人は実は料理の経験はほぼゼロだ。

 家庭科の授業で何回かオムレツとかカレーとか作った程度。

 朝食や弁当だって、いつもは神奈が作ってくれている。


 だから、キノコだけで美味しいはずがないのだ。


 もしかして、フローラはキノコが好物なのだろうか?

 ……ちょっと字面が卑猥だな。


「そんなに美味いのか?」


 神人は、お椀におかわりをよそう彼女を見て、そう尋ねた。


 するとフローラは、返事をするのもやかましいと、コクコクと首を縦に振って、無言で肯定する。

 彼はフローラからスープの入ったお椀を受け取ると、ズズと一口啜った。


「……美味い」


 具、一種類だけで食べても、それほど美味しくはない。だが、複数のキノコを同時に口に含むと、炊き込みご飯の様な味がした。

 何故だ。

 出汁はキノコから取れたのだろう。だが、それだと……。んー……。やっぱり、料理の事はよくわからないな。



















 翌日。


「んーっ……」


 フローラは目が覚めると、神人が羽織っていたブレザーが、自分の上にかけられていたことに気がついた。


「おはよう、フローラ。よく眠れたか?」


 怪訝に思っていると、向こうから角ウサギを片手にぶらさげている神人がやって来た。


「これは、お前が?それで、ずっと吾輩の代わりに見張りをしてくれていたのか?」


「まぁね。子供に見張りはさせられないだろ?」


 ……驚いた。

 いや、つくづく変な奴だ。


 昨日、あんなに吾輩に脅えていたくせに。なぜ、たったそれだけの理由で、吾輩の子守なんて請け負ったのだろうか?


 怪しく思ったフローラは、思わず神人に尋ねた。


「……何が目的だ?」


 いや、わからないわけではない。

 吾輩なら、初めてであった、理解できる言語を話せる原住民と接触したなら、まずは友人関係になるか、何かしらの形で仲間になろうと図る。

 これがその一環である可能性は極めて高い。

 聞いて、正直に話してくれることもないだろう。


「子供を保護するのに、理由なんて要る?」


 しかし、彼はそんなことはどうでもいいとばかりに、そう尋ね返してきた。


「それにね。俺は怒ってもいるんだよ」


「怒る?」


 彼をいたぶろうとしていた盗賊なら、もうこの世には居ないんだが……。

 怒りのやり場に困っている、という風にも見えない。


 怒る要因が、どこにあるのだろうか?


「君に、あんな事をさせている原因に、俺は腹の底から怒っているんだ」


 あんなことをさせる要因……。

 まさか、まだ何も話していないというのに、アレに気がついたというのか?


 いや、そもそもそれ以前にだ。


 この男は、初めてであった、何も知らない子供のために、そこまで無条件に怒れるというのか?

 同情で、怒っているのか?


「……お前は、変なやつだな」


 思わず、笑いがこみ上げてきた。


「俺、何か変なこと言ったか?」


 そんな彼女に、怪訝そうに質問で答える神人。

 ふと、そんな時。

 フローラの胸の中に、何か暖かで心地よい物で溢れるような、そんな錯覚を覚えた気がした。

次回の投稿は4月10日になります。

以降九話まで、毎週月曜日に予約投稿となっています。

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