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怪物剣士と魔術師のフローラ  作者: 記角麒麟
第一章 魔術師と護衛
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プロローグ

 走る。

 ひたすら走る。


 ただ、両親のいるあの家に向かって、私は彼らから逃れる。


 森を抜ける。

 駆けた腐葉土が中空を舞って、枯れ葉が舞い散って、雨水を跳ねて。

 月明かりに照らされた、暗闇を縫うように駆け抜ける。


 息が辛い。

 心臓の鼓動が、耳元で煩く叫んでいる。

 胸が辛い。

 お腹も痛い。

 心も痛い。


 涙に濡れた視界は霞んで、何度も木にぶつかりそうになりながら、ゆらりゆらりと揺れるその体を、必死に前へ前へと押し進める。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 綺麗だった絹のドレスは、土に塗れて黒く、汗に濡れて黄ばんだ。

 何度も足を滑らせた脛は切れて血が流れ、木にぶつかった体は切り傷と打撲痕でボロボロになった。


 千切れた袖で涙を拭って、ひたすらに、私は家へと駆けた。


「お父さん……!お母さん……!」


 切れ切れの息で、辿り着いた我が家へ向けて、声を張り上げる。


 家の明かりは未だ灯っており、しかしなのに中からは人の気配が聞こえなかった。


 少女は門を押し開けると、広い庭の向こうの樫の扉が、ギィ、ギィと音を立てて揺れているのが見えた。


 まさか。そんな馬鹿な……!


 少女は湧き上がる不安と恐怖を胸に、その扉へと駆け寄った。


「お父さん!お母さん!」


 何度も、何度も両親を呼んだ。

 しかし、家のどこを探しても、二人の姿はどこにも見当たらない。


 散らばった羊皮紙。割れたガラス。壊れたツボ。散乱する花。


 私が誘拐された時よりも一層、激しく散らかった家具は、彼女の不安と恐怖を、涙と怒りに変えるのは、とても簡単だった。


 未だに両親が私の名前を呼んで、彼らにあらがっている姿が聞こえるようだ。


 ……膝から力が抜けて、ペタンと床に座り込んだ。


「……どう、して……?」


 靄がかかったようにはっきりしない頭で、少女は首元のペンダントを握りしめた。


「どうして、私は……」


 彼女は意を決したように立ち上がると、その場から姿を消した。


 そう呟いた少女の目には、明らかな殺意が、ギラギラと輝いていた。

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