12/24(土)
仕事の量が異常だった。
施主の都合で納期が早くなった。その基礎の部分を担う俺達にも当然そのしわ寄せが来る。無理をしても出来ること以上の事は出来ないが、それでもその圧迫感は重い。
できる事をやり終え、いつにも増して忙しくハンドルが切られる車へと乗り込む。運転手は今晩と明日の晩には大切な予定がある。急ぎたい気持ちはわからないでもなかった。
しかし俺を降ろすべき幹線道路は浮かれた世間同様ひどく混みあっており、高野がハンドルを指で叩く音は鳴りやまない。
「ここでいい。降ろしてくれ」
「……マジで?」
「遠回りだろ。この先ずっとこの調子だと思う」
「結構距離あるんじゃねぇの?」
「歩いてりゃそのうち着くって」
先の信号が赤なのを確認し、動かない車のスライドドアを開ける。渋滞し動かない車の列を通り抜け、右側車線から歩道へと抜けた。一応手でも振ろうかと考えた俺が振り返った先、ワゴン車はタイヤを鳴かせてUターンをする所だった。
遠回りの道。ターミナル駅の近くを歩くこの道はやたらと人が多い。2人組が目立つことに加え、あらゆる所に施された電飾は恐らく最高潮に達していた。
家まで30分といった所だろうか。輝きで作られる影の様に陰鬱な気持ち、それを顔に出さないよう努めながら歩く。
いつも通りコンビニに立ち寄った。
少し意外な事に、いつもの店員がレジに立っている。あれだけ愛嬌をふりまければ、適当な男などいくらでも集まるのではないだろうか。適当な、という表現に流石に失礼だろうなどと考えつつレジに商品を置く。
「あと3番の――」
俺の顔を見た店員は、最後まで言う前に目の前で振り返ると早足でそれをPOSに通す。カウンターの上に置かれたそれをポケットに放り込み、暖められた弁当を受け取った。
「お疲れさまでした」
終業時の挨拶以外に長らく聞かなかった言葉と相変わらずな笑顔を向けられ、やはり引きつった笑みを返す。
「……ありがとう」
少したどたどしい礼を吐きながら振り向くと、カウンターの内側にもう一人いた男の店員がこちらを見てにやにやしている。それを軽く睨みつけながら店を出た。
愛嬌のある笑顔。
向こう側にいる彼女も、そういう所があった。
こちら側でいう所のエリートというような生まれ。竜などという、人間をただの餌としか見ていない生き物との意思疎通能力。ひとたび戦闘となれば彼らをけしかけ圧倒的な破壊と死を撒き散らす。そしてそれらを感じさせない柔らかい雰囲気。
その彼女が向けてくれる笑み。それは、どこにいてもそこが居場所とは感じられない俺が、異世界にあって初めてここに居たいと思えた場所だった。
その居場所さえ失ってしまった。
こんな事を考えるのももう少しの間だけだろう。
もう少しにしなければならない。
前を向いて生きていくために。
吐く息がひどく白く見えた。
化学調味料の画一的な味を感じながら、再びワンセグ機能を起動する。
相変わらずの面倒な操作と、今日にあってはやはりクリスマスというキーワードがそこかしこに散りばめられた番組が垂れ流される。
もはや苦痛に近いそれを、しかし閉じる事もなく日常を消化していく。
今まで通りの日常。
同じ目的で出掛けるのも本当に最後だろう。
客観的に言えばツーリングと呼ばれるそれに出掛けたのは、日付が変わった頃だった。