12/22(木)
休憩中の事だった。
安物のジッポがかちんと音を立てる。煙を吐き出す俺に、珍しく高野が話しかけてきた。
高野というのは俺の年下の先輩である。生意気な感は否めないものの、作業の手は早い。誤解を恐れずに言えば、要するに同僚であるだけの存在だ。
「諏訪さん。仕事納めの前日クリスマスってきつくない?」
「別にきつくない。俺は一人だからさっさと寝る」
「合コンする? まだ滑り込みセーフじゃね?」
「いいって。……年明けたら頼むかも」
「今だからいいんだよ。需要、あるよ?」
「あーなるほど。まぁ今回はいいや。ありがとな」
クリスマスという日。およそ2,000年程前にイエスキリストが生まれたという。
そんな起源など気にもしていない者達が浮かれまわる日であり、その生まれた当人が存在しない世界へ帰りたい俺としては、ただ鬱陶しいだけの存在だった。
しかしこの世界と迎合すると決めた期日を過ぎたならば、彼らと同じようにそれに浮かれるべきだろう。
煙草を灰皿に投げ込む高野に、来年は行くから頼むなどと改めて言ってみるか考えているうちに彼は自分の持ち場へと戻って行った。
いつもの帰り道。
幹線道路沿いを歩く視界に入る鬱陶しいLEDの点滅。それに目を軽く細め、いつものコンビニに立ち寄った。
昨日と同じ弁当をレジに持っていく。恐らくは近くの女子高の生徒であろういつもの店員が愛嬌のある笑みでいつもありがとうございます、などと言いながら煙草を持ってきた。
「あれ。いらなかったですか?」
少し怪訝な顔をしたのであろう俺に、少し慌てながらそれを元の棚に戻そうとする。
「ああいや、買うから大丈夫」
「なんだかごめんなさい。いつもありがとうございます」
営業用であろうとも眩しいその笑みに、引きつった笑顔を返した。釣銭を渡す手に、ありがとう、と小さな声で返しながら店を出る。しかし少し暖かくなった気分は、出入り口のガラスの扉に施された可愛らしいサンタと白い雪の装飾で、あっさり元の沈んだものへと戻った。
弁当を腹の中へ納めながら、携帯電話のワンセグ放送を起動する。初めて使用するその機能は、迎合すべき世の中を学ぼうとする自分にとっては初めの一歩である。
しかし面倒な操作と悲惨な画質にものの数分で興味を失い、ぱたんという音と共にその一歩は折りたたまれて終いを迎えた。
潰れた布団に潜り込んで、アラームの確認の為に携帯電話の画面を開く。そこに記載された郵便物のマークを見て、メールの画面を開いた。
「プレゼント送ってくれた?」
妹のメールだった。姪へのクリスマスプレゼントに、プリ〇ュアの玩具が欲しいなどと言う話は少し前に聞いている。
「もう送った。24日には届く。多分。」
「私の分は?」
「旦那に買ってもらえよ。俺の分は?」
結局、メールの返事はなかったが。
しかしそれを待つまでもなく、俺は眠っていた。