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12/27(火) 06:00

女は、肉厚の布にくるまって眠る男を眺めていた。

横になり幾許かもない間に寝息を立て始めたそれに、内心少し呆れている。


魔族の女。

この男を殺す事は目的としては2番目か3番目であり、本当の目的は生きて帰還する事だった。

そして、恐らくは人間達に駆逐され地上から消え去るであろう魔族として、最後まで皆と共に戦う。

それこそが彼女の目的だった。




戦闘型の魔族の長である父。何度退けても終わらない襲撃。それを間近で見ていた。

魔術型の魔族と手を組んだ。互いにしこりを残したままで長同士が交わす握手。それを間近で見ていた。

苦肉の策だが、もう遅いだろう。いつかこのまま攻め入られ、命も含め全て奪われるだろう。

勘のいい彼女は、それを感じていた。


かつて自分たちを屠った英雄たちを直接襲う、などという仕様もない計画に乗った。しかしそれは制止し辛い話の流れだったからであり、先程否定してはみたが恐らく残りの全員が返り討ちに遭っているだろう。

自分で言うのも何だが、父譲りの身体能力と長い練習を繰り返した自分は、並居る者の中で頭一つ抜けて強い自負がある。それでもかつての宿敵たちに直接攻撃を仕掛けて勝てるとは思えなかったが、逃げる前提であれば話は違う。

上手く行けば儲けもの。失敗しても逃げ切り、里へ戻る。……先程はついムキになってしまったが、いつもの自分になら出来る事だ。

逆に変に冷静に右も左も分からないところで逃げ出さなかったのは幸いだったと思う。




窓の外を眺める。

一体、ここはどこなのだろうか。

かつて宿敵の一人だった男は静かに眠っている。


ここは別の世界で、男はここではただの人間だという。

自分がそれと変わりない状況なのも分かった。


何か尖ったものをその首あたりに突き立てれば、表向きの目的は果たせるかもしれない。

……しかしそれでどうするのだ。ここが何処かもわからない。

先程も窓の外を、赤や黒の四角い荷車が低い音を立てて駆け抜けていった。馬もなしに、だ。

到底、自分の知り得る世界ではない。自分で帰れるとは到底思えない。


かつて同胞たちに降り注いだ地獄のような雷撃。

その使い手が戻れば、自分たちが滅びるのは更に早まるだろう。

しかし、それが何だというのか。

遅かれ早かれ滅亡する運命をただ傍観するのか。……ここでは傍観する事さえできない。


何としても戻りたい。その悲壮な思いは、無防備に眠る男に手を出させなかった。

悔しいが、相手も何となしにそんな雰囲気は察しているのだろう。





今まで触れた事もないような、ふかふかで手触りのいい毛布をかぶっていた。

部屋の隅で小さな音を立てる白い箱は、相変わらず温かい風を吐き出している。

頭がおかしくなったのだろうか。少し涙がにじんでいた。


軽く首を左右に振る。残念ながら、今、自分にできる事はないだろう。

珍しく時間をかけて考え込み状況を整理した彼女は、戦闘型の魔族らしく一息に結論を飲み込み、考えを切り替えた。

まずは提案通り、自分の勝手知ったる世界に戻ることが目的だろう。

一度大きく溜息をつく。


「さっきの飲み物、うまかったなぁ……」

小さく呟いた彼女は座ったまま、そっと目を閉じた。


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