北風不在
「君ってほんっとに、嫌いなもの多いよね?」
「いやいや、言うほどじゃないと思うぞ」
「じゃあ試してみようか」
「試すって、どういうふうに」
「私が言ったものを好き嫌い判定。嫌いが七割を越えたら明日のお昼はそっちの奢り」
「……そういう言葉狩り的やり口はよろしくないと人道的見地からコメントを述べさせていただきたい」
「人道」
「嫌い。自分が良い事をしてるって標榜する為のアクセサリーにする奴が多いから」
「コメンテーター」
「嫌い。主体を拡大して自分を多数派に見せるから。あと意見を鵜呑みにする連中を作るから」
「皮肉」
「嫌い。理由はノーコメント」
「自己嫌悪だね」
「ノーコメント」
「趣向を変えて、雲」
「嫌い。ただ流されてるだけの形のくせに、妙な想像を掻き立てるから」
「風」
「嫌い。洗濯物が飛ばされるから」
「雨」
「嫌い。洗濯物が乾かないから」
「太陽」
「好き。洗濯物がよく乾くから」
「面倒くさくなってない?」
「いやいや決してそんな事は」
「乾燥機」
「嫌い。空気がなんか臭うから」
「洗濯物は乾くけど?」
「乾燥機を名乗るくせに洗濯物も乾かせないなら、俺はもっと嫌いになるね」
「……。じゃあ、洗濯物」
「嫌い。洗濯しないといけない気持ちになるから」
「やっぱり全世界大嫌いマンじゃん。太陽くらいじゃん、好きなの」
「設問が良くない可能性はある」
「ないから。全然ないから」
「省みるってのはとても大切な行為だと思います」
「はいはい。今のを録音して毎晩聞かせてあげたら、その大切さをもっと認識するかな?」
「俺が大変悪かった。悪うございました。たいへん、はんせい、しています」
「心がこもってないなー。……あ、ひとつ聞き忘れてた」
「ん?」
「私は?」
「んん?」
「だから、『私』は?」
「ノーコメ」
「ノーコメントは禁止です」
「……」
「……」
「洗濯物はよく乾きそうだ」
「その心は?」
「こうやってじゃれてるトコを目撃されて、よく『お熱い』って冷やかされる」
「ふむ」
「なんだよ」
「上手く私のご機嫌を取ったから、明日は奢ってしんぜよう」
お題:俺の太陽