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今はまだ、ライバル

 大上段に、竹刀が振りかぶられる。

 そこから繰り出されるのは、彼の気性そっくりの真っ直ぐな打ち込み。

 予備動作からもうわかりやすくて、「こういうふうに打ち込みますよ」と予め教えてくれているようなものだった。

 きっと祖父には私がこんな具合に見えているのだろうな、なんて思う余裕まである。

 切っ先が面へ落ちかかるその前に、動いた。

 左前方へ踏み込んで体を躱しつつ、仕掛ける事ばかりに意識が向いてガラ空きの小手をぴしりと打つ。

 審判は不在だけれども、文句のつけようもないほどに綺麗な一本だった。

 言い逃れできないと諦めたのか、彼も悔しそうに唸りながら動きを止める。


「ほら、拗ねてないで礼!」


 指摘してやると負けず嫌いは意外にも、きちんと割り切って蹲踞(そんきょ)の姿勢を取った。


「くっそ、今年は勝てると思ったのにな」


 礼を終えて剣を収め、面を外しながら彼は言う。 

 面立ちに幼さが残るのも当然で、彼は先日中学に上がったばかりだった。


「ダメだね。全然未熟だよ。てんで修行が足りません」

「来年! 来年こそは勝つ!」

「去年も聞いたよ、その台詞」


 毎春の勝負は、小学校の頃から続く二人の恒例行事になっている。

 私の祖父が体育館を借りて開く日曜道場に、自信満々の彼がやって来たのがその始めだ。

 居合わせた私に試合でこてんぱんにされて、以後真面目に祖父のところへ通いつつ、いつか私を打倒するのだと息巻いている。


「うっせー、ちょっと強いからっていい気になるなよ出小手(でごて)女。『男子三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ』ってお前のじーちゃんが言ってたんだからな。次こそ絶対負かしてやるからな!」


 はいはいと受け流して額の汗を拭う。

 口の悪さとは裏腹に屈託のないその横顔を、少しだけ眩しく見やる。

 二つ年下の彼の背は、この春とうとう私に並んだ。

お題:不屈の春

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