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母の中の闇
最近の夜は明るい。
街の灯りは終夜衰えず、眠り続けるにはどうにもうるさい。
だから、寝室に闇を集める事にした。
知己の釣具屋を頼って良いたもを探し、購った。
そうして家を抜け出ては、人造光の少ない場所で上質な夜闇を掬った。
捕えた夜は、特製の徳利に注ぐ。
大きな口へ寄せた網をそっと傾けると、とろとろと水飴のように闇は流れ込んだ。
数日作業を続けてから、蓋をした徳利を耳元で揺する。するとちゃぷちゃぷと良い音がした。たんまり溜まってきたようだった。
そろそろよかろうと、その日寝所を締め切って、徳利を逆さにした。
中から夜が溢れ出て、ドライアイスの煙めいて蟠る。それは床を覆い布団を覆い足首を覆い膝を覆い、やがて僕の頭を越える闇だまりになる。
どこか懐かしいような気持ちになった。
何一つ見えはしなのに、どうしてか僕は、この漆黒を知っているようだ。
ああそうか、と思い至って呟いた。
──母さん。
きっと求めたのは眠りではなく、ぬくもりであったのだ。
お題:漆黒の闇に包まれし計画