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轍を踏み直す  作者: 紅葉(くれは)
1/1

高校三年〜四月〜

轍を踏むー前人の犯した失敗を繰り返す例えー。これから語るのは、同じ失敗を繰り返さぬように、言うなれば轍を正しく踏み直す物語だ。

 高校三年になって初日のチャイムが鳴る。

 気付けばもうあと一年で卒業というところまで時間は過ぎていたが、そんなことはどうでもよかった。適当に就職して、適当に歳を重ねて、静かに眠る。そんな未来に期待することなど何もないからだ。

轍平てっぺいおはよう!」

「おはよう美海みうな

 美海みうなは小学生からの幼馴染で兄妹みたいな関係だ。

「また同じクラスになれたね」

「ああ、あと一年間よろしくな」

 クラスで一番可愛いと噂されている美海が笑顔で挨拶するから、他の男子は嫉妬のような眼差しで睨みつけてくる。

 はあ、いい迷惑だ。

 俺は恋愛感情がよくわからない。

「おはよう」

「おはよう大地だいち

 そんな男子の中でも俺と友達になってくれた大地だ。

 大地は誰にでも分け隔てなく接してくれて、頼れる奴だ。

「みんなおはよう」

「おはようてんちゃん」

 落ち着いた佇まいは家庭環境によるものだろう。

 てんちゃんと呼ばれているがこれは愛称で、本名はそらだ。

「高校最後にみんな同じクラスでよかったね」

「だな。轍平を一人にできないし」

「余計なお世話だ」

「私はみんな一緒で嬉しいな」

 美海みうな大地だいちそらは俺にとって友達と呼べる数少ない存在だ。

「みんな席に着けー。まずは転校生の紹介だ。」

 こんな時期に転校生か。

「転校生は男ですか?女ですか!?」

「お前ら静かにしろ!よし、入っていいぞ」

 ドアが開いて入ってきたのは、肩くらいまで伸ばした赤茶髪の女の子だった。

「女の子だ!」

「男じゃないのかー」

 喜びや落胆の入り混じった声で溢れる。

 一年間同じクラスでも話さなかった奴もいたし、この転校生と話す機会なんてそうそう無いだろうな。

「はじめまして。希望のぞみといいます。一年間よろしくお願いします!」

 黒板に綺麗な文字で書かれたその名前は、希望きぼうと書いて希望のぞみ。笑顔で挨拶する様子を見るからに、親からの愛情を受けて育ち、文字通り未来への希望しかないんだろうな。

 俺とは正反対の人生を歩んできたんだろう。目を背けたくなる。

「轍平は転校生に興味ないのか?」

「そんな風に見えたか?」

 大地は驚くほどよく見抜く。

「轍平のことなら分かるさ。親友だからな」

「こんな良い友達めったに居ないよ?轍平をよろしくね大地くん」

「任せとけ」

「美海は俺をなんだと思ってるんだ」

「ふふっ」

 これが俺たちの日常だった。

「希望は美海の隣が空いてるからそこに座ってくれ」

「はい」

「よろしくね!希望さん」

「よろしくお願いします!美海さん」

「分からないことがあれば私に聞いてね。あと、美海さんはちょっと硬いかな」

「助かります!えーっとじゃあ美海ちゃんって呼びますね。私のことも気軽に呼んでください!」

「じゃあ改めてよろしくね!希望ちゃん。私の友達を紹介するね。てんちゃんは一番の仲良しで、こっちは幼馴染みの轍平、そして轍平の親友の大地くん」

「よろしくお願いします希望ちゃん。本名はそらだけどてんちゃんって呼んでくださいね」

「よろしく」

「よろしくな」

「みなさんよろしくお願いします!」

 さっそく転校生と話す機会ができてしまった。

 ま、美海に任せておけばいいか。

 これ以上深く関わることはあるまい。

「それじゃあ出席取ったら始業式行くぞ。体育館に集合だからな」

ー始業式後ー

 なぜ校長という人たちは長話が好きなのだろう。

 あんなに長々とした話を真面目に聞いている人はほとんど居ないだろうに。

「今日は始業式だけで終わりだからこれで解散!気をつけて帰れよー。」

 担任は話が早くて助かる。

「ねえねえ、これからどうする?」

「私は予定ないよ」

「帰る」

「えー、せっかく昼前に終わったんだよ?あ、そうだ!希望ちゃんはこれから予定あるの?」

「予定?無いよ」

 あ、この流れはまずい。

「ならみんなで遊びに行こうよ!ね?」

「行きたいです!引っ越してきたばかりで、この街のことよく分からないので案内してくれませんか?」

「それならお昼ご飯を食べながら話そうよ」

「轍平も参加だからな」

「はあ、分かったよ」

 家に帰ってもやること無いし、今日くらい参加するか。

「よし、なら決まりね!」

「楽しみです」

「んー、この時期ならあの場所がいいかな。あ、それとさ敬語はやめにしない?もう友達なんだからさ!」

「はい!じゃなくて、うん!」

 さすが美海だな。転校生ともすぐ友達になってる。

「俺さ、ちゃん付けで呼ぶの何か気恥ずかしくてさ、他の女子も呼び捨てだから希望って呼んでもいいか?」

「え、あ、いいよ大地くん」

 いきなり呼び捨てとは、やるなー大地。

「希望はどこから引っ越してきたんだ?」

「市内からだよ」

「市内から越して来たならこの街は田舎すぎてつまらないかもな」

「そんなことないよ。自然に囲まれてて良い街だと思うよ」

「そっか。なら良かった」

「海も山もあるし素敵な景色がたくさんあるよ」

「やっぱり天ちゃんも景色を紹介したいって思ったんだね」

「この街と言えばね。この時期ならあの場所が良いと思うんだけど」

「私もあの場所が良いと思ってたんだ!」

「あの場所ってどこですか?」

「まだ内緒。楽しみにしてて」

 この時期といえば、たぶんあそこだな。

 他愛もない話をしていると学生御用達のバーガーショップに着いた。

「お、新作出てるじゃん。俺はこれにしようっと。轍平は?」

「俺も大地と同じでいいかな」

「私はテリヤキ。天ちゃんポテトシェアしよ」

「いいよ。私はチーズにしようかな。希望ちゃんは何にする?」

「私は新作にする」

「席は、あそこ空いてるね」

「いただきます」

「新作バーガー美味しいね!轍平くん大地くん」

「お、旨い。この新作は当たりだな」

「ほんとだ。美味しい」

「なら私もそれにすれば良かったー」

「テリヤキも美味しいでしょ?」

「うん。美味しい」

「なら良かったじゃない」

「美海ちゃん一口食べる?」

「え、いいの?なら遠慮なく。ん、美味しい!」

 ほんとに今日知り合った仲かよ。女子ってすげー。

「食べ終わったらあの場所を紹介したいなって天ちゃんと話してたんだけど、二人はどう?」

「あそこは見ておくべきだろうな」

「良いと思う」

「なら決まりね!」

 ーあの場所。それはチェリーロードと呼ばれる川沿いの桜並木だ。

「希望ちゃんに紹介したかった場所はここです!いい感じに咲いてるね」

「まだ散ってなくてよかった」

「ここが紹介したかった場所?綺麗な桜並木」

「もう当たり前のように見慣れた景色だけど、誰かに紹介するならこの景色だよな」

「そうだね。チェリーロードは名所だと思う」

 ポロッ。希望の頬から突然それはこぼれ落ちた。

「え、どうしたの希望ちゃん!?」

「まさかこんな景色でがっかりしたのか?」

「ううん、違うの。私こんな景色見たの初めてで感動しちゃったの」

 景色に感動して泣く人を初めて見た。

「ふふ、感動してくれたなら紹介したかいがあったね」

「みんなありがとうね」

「どういたしまして。まだまだ紹介したいところはあるんだからね!」

「楽しみにしてる!」

 ーそのあとは街で一番大きな店で遊んでから解散することになった。

「じゃあみんなまた明日ね」

「じゃあな」

「じゃあね」

「また明日」

「みんなと友達になれて良かった!また明日ね」

 ーその日の夜、轍平のスマホにメッセージが届いた。

『轍平へ。このメッセージが届くことを切に願っています。』

 だれからだ?差出人は、不明だ。新手のウイルスか?

『いきなりで驚いたかもしれません。ですが、絶対に最後まで読んでください。高校三年の始業式、希望ちゃんが転校生としてクラスメイトに。そしてバーガーショップ、チェリーロードにも行きました。これを言ったところで、一緒に遊んだメンバーのいたずらじゃないかって思うかもしれない。だから信じてもらう為にGWゴールデンウィークに何をするか教えます。GWはみんなで海浜公園に遊びに行きます。そこのアスレチックで希望が怪我をするから、絆創膏を忘れずに持ってきて。今はいたずらだと思うかもしれないけど、忘れないで。またメッセージを送るから届いたら絶対に見てください。』

 差出人は分からないけど、今日一緒にいたメンバーなのは分かったから、明日みんなに聞くか。

ー聞いてはみたものの、だれも送っていないという。二通目は未だ来ず五月へ

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