ゲームと隠し事
部屋のカーテンの隙間から太陽が覗いて、赤色に染めた髪が照らされる。
眩しさで目を凝らしながらも起きる。
「踏むところだった…危ねー」
ベッドの脇には昨日準備したゲームのコントローラーが置いてある。
部員のナユタがゲーム好きで暇さえあればゲームをしている。
それに便乗して部員全員でゲーム大会を開催する事になった。
ナユタが来るまではみんなでゲームをやろう!
なんてならなかっただろうし、
みんなが楽しんでいるみたいだから良しとしよう。
部員の中ではエル、とや、ヒロの3人が中々に強い。
それぞれ得意分野はあれど勝てる気はしない。
マリー、ユキ、もごは人並みくらいか。
ローは対戦ゲームは基本弱い。
偽手は強い方だと思うが…よく考えたらあれって動かしてるのローだから実は強かったり…?
いや考えるのはやめよう。
大人数で遊べるカセットが出たらしくナユタがワクワクしていた。
実際、俺自身も楽しみだ。
荷物の準備をして髪を整える。
今日は前髪を上げて行こう。
「行ってきます」
帰ってこない返事を鼻で笑って家を出る。
フッドフォンを付けたら音楽を流して現実の世界とシャットダウンする。
音楽と電車に揺られながらボーッとする。
あと二つ駅が過ぎたら学校に着くなーだとかボンヤリと考えていると肩を叩かれる。
「おはよ。ガルム」
小説を片手に持って話しかけてきたのはマリーだ。
「マリー…おはよ!」
ニコニコと表情を作る。
「今日は前髪上げてるのね。表情が見えやすいわ」
小さなため息混じりにマリーは俺を見る。
少しずつ話をしながら学校へ向かう。
「今日はナユちゃんが新しいゲームやるって言ってたけど、リュックパンパンに詰め込むくらい楽しみなの?」
「これはスナック菓子だよ…あったら食うだろ?」
「あら、お菓子ならローちゃんが作ってくるって言ってたけど」
「コインロッカーに入れてくるな」
「あればみんな食べるわよ」
「まぁ作ってくるなんてローちゃんは言ってないけどね」
「騙したなー」
そんな話をしていたら学校の門が見えて来た。
「やっぱ二人が並ぶとマリーが小さいのかガルムがでかいのか分からないな」
「ユキー?言っていい事と悪い事があるわよ」
「うん。マリーが小さくてガルムがデカいだけだな」
「ユーキー??」
後ろから声をかけてきたユキがマリーに追いかけられている。
それをみている俺はまるで二人の保護者みたいだ。
「ガルムさん」
落ち着く可愛らしい声が後ろからしてすぐに振り向く。
「今日は前髪上げてますね!かっこいいです!」
「悔しいが似合うなー」
ニコニコとしているローと腕をパタパタとしている偽手。
その隣にいるとやとエル。
「おはよー。ガルム。今日はローとお菓子作ってきたから楽しみにしてなよ」
「味は保証するから楽しみにしとけ」
「誰だ味見するとか言って半分以上食べて、落として形悪くした犯人」
「はーい」
とやが横目でエルを見ては逃げるようにエルは走り出す。
「朝から元気ですね」
「ほんとな」
「ガルムさんは…またですか?」
「家でちょっとな…」
「そうですか…」
小さな大人っぽい声を出してローは俺の裾を掴む。
「私はガルムくんの隣にいるから…そんな顔しないで」
「それは俺も同じだよ」
俺にしか聞こえない小さな声が消えてしまいそうで…
ゆっくりと手を繋ごうとした。
「ロー!早く行こう!」
走って行ったエルが前からローの右手を握って走り出す。
「ガルムさんも早く!」
可愛らしい声で振り向いて手招きをする。
部室に着くとナユタともごが先に準備をしていた。
「遅い!!」
「皆さんおはようございます」
文句を言うナユタと冷静なもご。
「みんな集まったしやるか!」
ローはとやと作ってきたスコーン、クッキー、ブラウニーを机に広げる。
その横にじゃがいもチップスやじゃがスティックのスナック菓子を並べる。
大きめのテレビ画面に集まりゲームをする。
「とやが強い!ズルだズル!」
「エルが弱いだけだろ!!うわ!ナユタさん酷い!」
「人のこと言えませんね!」
「あらあら皆さん!どうしたんですかー?」
「ヒロが煽るの珍しいね。みんな強すぎ」
「きっと練習してたんだよ。さてマリー覚悟!」
みんながワイワイとゲームをしている姿を後ろから見守る。
「ブッセさん…」
「今はローですよ」
「ローは…これでいいのか?」
「完全体にはあと1つ足りないけれど…今はこれでいいですよ」
「あと1つ…?」
「ここは私たちの居場所ですよ」
可愛らしい小さな声でそう言いながら手を握られる。
「ロ、ロー!?」
動揺と心臓が早く動く。
「あら、朝にしたかったのは違かった?」
イタズラをする子どものような顔をして小さな大人っぽい声で笑う。
「ほんと…ずるいな…」
この気持ちも見透かされているようだが隠しておく。
きっと俺には届かないだろうから。
「ほら、次はガルムさんの番ですよ!」
「いい試合だったな!俺様も負けてられないな!」
手を離したローと黙っていた偽手が話し出す。
「手加減無しな」
数時間の勝負の結果、優勝は俺。
2位ナユタとヒロ。
3位はとや。
久々に本心から笑った気がした。