思い出のヘアゴム
俺は最低な人間です。
目の前で親友が泣いていても俺は何もできない…。
ただ、狼狽えるのことしかできなくて、
慰めてやることも出来ない能無しの役立たずだ。
こうして多くの女子から嫌われて生きていく人生になるのかもしれない…
唯一の親友に嫌われて…本当になんで生きてるんだろ…。
「それで…なんで泣かせたのかな?」
部室に戻るなり泣き疲れて寝てしまったローに視線を置きながらも幸は俺の目の前に座る。
「俺が泣かせたわけじゃなくて…」
「言い訳は良いよ…何があった?」
エルは話を取り返して言う。
言い訳じゃないし…話聞けよ…。
って言うより、ローが起きてから聞けばいいじゃん!!
遡る事数十分前…。
俺とローはいつもの様に会話をしながら購買へ行った。
その帰り道で…
「髪を縛り直そうとした時に髪ゴムが切れただけなの!」
「はぁぁぁぁ!!?」
はぁぁぁぁ!!?って何だよ…何でキレてんの!?
本当のことだし、その対応は無いでしょ!!
「何なのお前ら…」
部室のドアが開くと、マリーが入ってきた。
「おはよー?…わっ、血出てる…!!?」
入ってくるなりマリーは慌てながら、
ローに近付いて右手の人差し指を見る。
「うっわ…これはザッパリといきましたな~…」
幸も便乗するようにローの傷を見る。
「あれ…?このヘアゴムって……」
マリーは気付いたみたいだ!!
今がチャンスだ!
言えぇぇぇぇ…俺ぇぇぇぇぇぇ!!
「ほらっ!片方しか無いのがちゃんとした証拠で、
それで泣き出したんだよ!!!」
ドヤ顔を決めて言い放つ。
よく頑張った俺!!
帰りにちょっと高いお菓子買って帰ろ!
「まぁ…そりゃあ泣くでしょうね…」
「なっ!!ほら~!」
エルはちょっと悔しそうな顔をしてる。
まさか…勝ちました?イェーイ!!
勉強でも、スポーツでも勝てないけど…
今ようやく勝ちましたぁ!!
すごい気分がいいな!お菓子にジュースも付けちゃお!
「これって去年とやがあげたプレゼントだからね~」
「えっ?何が…?」
優越感に浸っていると、マリーは話を切り出す。
「まさか…覚えてないの…?
あれだけ人に相談しまくってたのに…」
マリーのため息が俺の心に突き刺さってきた。
「女の子にあげるのってどう言うのがいいの!?って、
聞き回って、人のアドバイスも聞かないで買ったんでしょ…」
ーーーー
「ロー!欲しい物ある!?」
「強いて言うなら…テラス付きの広くて大きな家が欲しいです!」
「家は無理…じゃなくて、なんか物とか!?」
「僕が欲しい物は高いですよ?」
「ブランド品とか…?」
「楓さんの書き下ろしイラストの5万ピースの光るパズルとか…」
「それって抽選のやつじゃん…」
「倍率が『高い』ので…」
「値段じゃねぇのかよ!!上手いこと言ってー!」
エルとローのそんな会話を聞き、
ローの誕生日が近付いてることに気付いた。
「僕は…居場所が欲しいです」
「ロー…」
「例えば、グランドピアノがあって…大きく広い家…」
「感傷に浸ってた俺がバカでした…回りくどく家が欲しいって言いたいだけだろ…」
「はいっ!」
元気に返事をする姿に憎めないなと思いながら、
スマホで『女の子が喜ぶプレゼント』で検索をする。
ぬいぐるみ…ネックレス…洋服…。
「マリー!!女の子にあげるのってどう言うのがいいの!?」
エルとローが購買に行った瞬間にマリーに聞く。
「貰えたらゴミ以外嬉しいんじゃない?」
マリーに話しかけたのに、
ニヤニヤと笑いながらヒロが割り込んできた。
「お前に聞いてないし!!」
「そうだね…オルゴールとか嬉しいんじゃない?あの子、色んな曲知ってるから…」
オルゴール…!!
オルゴール…?
ってどこで買えるんだ…?
「よしっ…ねぇ!今日一緒に買いに行こ!!」
早速、二人を誘ってみた。
「まぁ、暇だし…行ってやらんことは無い」
「ローが喜ぶ物買えたらいいね~」
よっしゃぁぁぁぁぁ!!!!!
えっ?なんで一人で行かないのかって?
それはもちろん…
人がいっぱい居る場所に俺一人で行ったら死ぬよ!?
対人恐怖症なんだからやめてよ!!
そんな場所に一人で行ったら平常心保てないよ!?
運良く生きてても、次の日から家に引きこもるからね。
…
「あわわ…ひ、人が…いっぱい…」
ハハハ、前言撤回…
一人で行こうと、三人で行こうと怖いものは怖い!!
もうやだ…家に帰って引きこもる…!!!
「何してんの?置いてくよ…?」
ヒロの冷たい目線が突き刺さる。
「やめて!!こんな場所に置いてきぼりにされたら死んじゃうよ!?」
「どちらにしても死ぬのね…」
マリーの優しい声も今は突き刺さる。
俺のメンタルが…崩れそうだ…。
「うぅ…もうやだ…」
「ほら、ぐだぐだ言わないの…!!」
まるで駄々を捏ねる子どもを叱る親のようにマリーは俺に言う。
「あれ、良くない?」
ヒロが指を指すクマのぬいぐるみよりも人が気になって仕方ない…。
人…人…人、人、人、人、人人人人人人人…。
うわ…気持ち悪くなってきた…。
「聞いてる?」
マリーの声でさえ、聞く気になれない。
「あっ…」
大人っぽい雰囲気のお店。
あまり人が居ないのもあるからだろうか。
つい目がいってしまう。
化粧品…コスメ…ファンデーション…ゴシックなネックレス…。
どれも中学生には似合わない物ばかり…
陳列された物のなかには、子どもが付けても違和感の無いようなシュシュ等もある。
その中でショーケースに入った黒のヘアゴムのセットが目に入った。
「あの…これっ…欲しいのですが…」
「はい、少々お待ちください」
大人っぽい定員さんに言ってそれを買う。
「おわっ!!?い、生きてたのか…」
ヒロの失礼な言葉も今なら気にしないでいられる。
「一人でこんなところいたら死ぬんじゃなかったの?」
とりあえず達成感でマリーの言葉も乗り越える。
「もう、用事ないし帰ろ!!」
ーーー
「あっ…思い出した…」
そうか、ローが時々着けていた黒のヘアゴムは俺があげたんだ…。
「大切な物が壊れて泣き出したってことか?」
「そう言うところかな!」
幸の問いにマリーが答える。
「ごめん…」
「悪い」
疑い晴れたぁぁぁぁぁ!!!!
でもローが泣くぐらい大切にしてくれてた事がわかって嬉しい反面良かった。
「あっ、エルさ…バレーの部員たち探してたよ」
「あぁ!!!ヤバい、行かないと…じゃあ!!」
「今度はローを泣かせんなよ!じゃ~な!」
エルと幸ともそう言えば、大会が近付いてるんだっけ?
「私も行こうかなー。またね!」
部活やってる人たちはこれからが大切な時期だもんな…
ローが起きる前にマカロン帰って来るか。