家庭科
「かぼちゃちょこぱん美味しい!!」
大きな口を開けて、昨日買ってもらったかぼちゃちょこぱんを頬張る。
「とりあえず一段落だな」
「危ないことしやがって!!」
「うわっ!耳を掴むな!」
「大体じゃなくて俺が行けば良かっただろ!」
「偵察は俺様の方が向いてんだよ」
偽手ととやが話をしているが…
予想外な出来事に凹んでいるほどボクに時間は無い。
失敗したら次は絶対に失敗しない。
そう誓った。
「急ぎでもさ…ローの事を心配してるって事は忘れないで」
エルはそう言ってボクの口元を拭う。
「更新も終わって、猫とローさんの大活躍で無事乗り越えらたことで…ゲームでもしませんか?」
少し気まずい空気を和ませる様にナユタさんがいくつかカセットをカバンから出す。
「ボクは…授業に行ってきます」
かぼちゃちょこぱんを食べ終わったと同時に声を掛ける。
ラン外以外の人と関わるのは正直嫌だが…
ある程度の交友がある。
こう言う関わりを持っていた方がランキングを付けるときに楽になるからだ。
「カロンちゃん!こっち!こっち!」
「う、うん!」
カロンちゃんか…。
部員はローって呼ぶから新鮮な気分だ。
気乗りして来ている訳でないからか違和感もある。
「いつも家庭科の授業にいるから、ちょっと話してみたかったの!料理も上手だし、カロンちゃんはいいなぁ!!」
今日の登校時に授業に誘ってくれたのは譜雨舞さん。
同じ中学二年生、メガネをかけた三つ編みの女の子で三軍に所属してる。
見た目は気の弱そうな子だけど、自分の意見をちゃんと言えてとてもしっかりしてると思う。
今日の家庭科の授業は卵を使った料理を作るというものでメインの卵と何やら沢山の食材がある。
「今日は何を作るの?」
「卵を使った料理…ケーキとかですかね」
「卵焼きしか思い浮かばなかったよ!やっぱりカロンちゃんはすごいね!」
メガネの奥の瞳がキラキラと輝いている。
あまりグイグイ来られるのは苦手だが…
フリースクールの中で部員以外の人とは授業関連でしか関わらないので我慢しよう。
「譜雨舞さんは何のケーキが好きですか?」
「ガトーショコラ!」
「じゃあ、それを作りますね」
世間で言う女子力の高い女子なのだろう。
可もなく不可もなくと言ったところか。
「やった!!」
喜び方も可愛らしい。
授業は2時間連続で1時間目の授業終了のチャイムがなる頃にはガトーショコラが完成した。
「美味しそう!」
譜雨舞は完成と同時に歓声を挙げる。
「カロンちゃんって実は天才!?」
出来上がったばかりのガトーショコラを頬張りながら譜雨舞さんは言う。
天才だなんて初めて言われたかもしれない…少し嬉しい。
偽手は天才だと自称するが、ボクにはそんな自信微塵もない。
「んん~!!美味しい!!」
普通の人はこんな風に喜ぶのか…。
「また、一緒に授業受けようね!」
こんなの初めてだ…。
一人ぼっちの感情で寂しくもなる。
片付けもスムーズに終わり課題を提出した時に授業終了のチャイムが鳴る。
「またね!カロンちゃん!!」
あっという間に授業は終わった。
ほとんど放心状態で気が抜けているのか、いつもよりも変な感じがする。
「だいぶ疲れたな」
「早く…帰りたい…」
「キラキラの可愛いローちゃんはどうしたよ?」
「疲れた」
偽手と2時間離れていたせいもあってか少し不安感が拭えない。
「ただいま…」
部室のドアを開けると、何かが僕を包み込むようにいきなり飛び込んできた。
「おかえり!!いい匂い!」
いきなりのことで思考がうまく回らない。
「あっ…エル…びっくりした…どうしたの?」
「おい!セクハラだぞ!離れろよ!」
声を聞いて、ようやく思考が回った。
「外行こうとしたらドア開いてローが泣きそうな顔してたから…」
そんなに顔に出てたのかな?
不安と恐怖を感じたが、勇気を出してエルの顔を見てみると頬を赤く染めていた。
「こんなことするのって実は意外と恥ずかしいんだからな!!」
珍しい…エルが照れてる…?
「ただ出て行くタイミングとローが入ってきたタイミングが一緒でぶつかりそうになって咄嗟に抱き締めたってとこでしょ。イチャイチャしやがって」
ソファーに寝転がっているとやは嫌そうな顔をして言う。
「違うから!!」
「違くないだろ…距離が近過ぎる。はいダウト」
「とーやー!!」
ギャーギャーと騒ぐ二人を見て先程までの心のモヤモヤが解消されていくのが分かる。
やはりここは1番安心する。
「ただいま」
改めて小さく声を掛けた。