リューク 5
こんにちは。読んでくださってありがとうございます。
真っ白の木屑が降り積もるそこは、年数を経た後、とてもいい畑になったという。本当は森があったのだけど――。
「お父様、私、リュークのことが好きなの」
エリザは、国王陛下に言い募った。アインはまるで他人の話のようにクスクスと笑って聞いている。
「おや、二十歳まで待てなかったの、リューク?」
国王陛下の目が俺を見る。口調は軽いのに、何故だろうか背中を汗が流れた。
「すみません、二十歳まで待つという約束だったのに・・・・・・破ってしまいました――」
エリザは、心配そうに俺を見つめる。二つの相反した目に俺はジッと耐えた。
「まぁ仕方ないよ。命の危機は種としての生存・・・」
アインが俺を憐れに思ってか、どうだかわからないが、援護しようとしたところを国王陛下が切り捨てた。
「どうでもいい――。アイン、お前の愛し方が足りなかったんじゃないのか?」
国王陛下には、俺の言い訳などどうでもいいのだ。俺が約束を守らなかったことが、許せないのだろう。
「お父様、ごめんなさい。でも――」
「ああ、エリザはいいんだよ。だってリュークは、運命の人だからね。『愛の魔法使い』第一号の私が、選んで君の魔力の受け皿にしたのは、けして遊びでもなんでもないんだよ。君はリュークという運命の番がいるから、君の母親であるだろう魔法使いがここを選んだだろう」
エリザが謝るのは、許せるらしい。
国王陛下が告げたことは、エリザにとっては初めて聞くことだろう。俺は既に二十歳になったときに聞かされている。
エリザは、遠い記憶をたどっているようだった。まだ小さかったエリザは、覚えていないかもしれない母親らしき人のことは、国王陛下だってあまり知っているわけではないようだった。
エリザ、君に初めてあったとき、君は小さくて、稚くて、この世界にこんなに愛しいものがあるのだと知った。
国王陛下たち愛の魔法使いは、運命のように出会う惹かれ合う二人をさして、『運命の番』という。
二十歳になったとき、俺は国王陛下に尋ねた。
「俺の番は、エリザ姫ではないのですか?」
その頃は、もう彼女のいない人生など考えられなかった。エリザを得ることが出来ないのならば、騎士として彼女を一生守っていこうと覚悟を決めて、俺は国王陛下の元を訪ねたのだが、そこにはアインもいた。
「お前がそうだと思うのなら、エリザはお前の運命なんだろう」
よくわからない答えが返って来た。
「リュークは真面目だから、エドの言うことはわからないだろうよ」
アインという婚約者がいて、俺の番がエリザ姫であるはずがないと思っていた。運命は、そう何人も相手を用意してくれていないだろうし、愛の伝道師であるエドワードが選んだのがアインであるなら、俺の番はほかにいる、はずだった。
アインは強い――。魔法を使わせても、剣を使わせても、俺など軽くあしらう手練れだった。意地悪だが、心底人を馬鹿にしたりはしない、と思う。
誰よりも人生を謳歌しているような男なのに、時折見せる表情にハッとすることはある。国王陛下にもあることだけど、陽だまりをこよなく愛する猫だと思っていたら、しなやかな美しい身体で獲物を狩る豹のような・・・・・・、そんな違和感だ。
「アインはただのエリザを護るための盾だ、こんな男にエリザを託したら、エリザを命がけで助けた魔法使いに申し訳ない。エリザをここに飛ばしたのは、多分母親だろう。エリザについていた言霊は、酷く焦っていて、ところどころ破損していたから、よくはわからないが、わざわざここを選んだようだった。エリザの運命があるらしい」
国王陛下のアイン評は激しく低い。
こんな男というような男に、エリザを・・・・・・?
身を焼くような焦燥感にさいなまれながら、俺は拳を握った。
母親らしき人物は、もはやこの世にはいないらしい。一人きりになってしまったエリザ、やはり俺はエリザを護りたい――。
「そうだな、エリザが二十歳になったときに、エリザ本人に聞いてみらたらいい。二十歳になる前にエリザに愛を告げたり、ほのめかしたり、手を出したら、その時はわかっているな?」
カエルにでも変えられそうな気がするほど、ゾッと背筋が凍るような笑みを国王陛下は浮かべた。
きっとカエルにされた後で、油で揚げられて、食べられてしまうのだろうと、俺は自分の末路を想像し、約束をしたのだ。
「はい、俺の名前にかけて――」
俺は自分の名前にかけて約束したことを反故にした。
「エリザ、俺の可愛いお姫様。二十歳になったらリュークのところにお嫁に行きたいかい?」
国王陛下は、抱いているエリザに訊ねる。エリザは、それを国王陛下の了承ととったのだろう。大きく頷いてから、俺を見た。
「残念だな、僕のものになったらいいのに」
アインが横からエリザの頭を撫でる。アインは嘘っぽく言っているが、本音を隠しているだけのような気がする。本当は、アインだって、エリザのことを――。
俺は、エリザではなく、アインを凝視しつつ告げた。
「エリザ、一年後、君を俺の妻にするよ」
アインに挑んでいるのは、俺のただの子供ぽさなのかもしれない。それでも俺には、アインはライバルなのだ。
「はい――」
迷いなく頷いてくれたエリザに堪らなくなって、国王陛下に抱かれているエリザの頬に口付けた。
真っ赤になったエリザを攫ってしまいたい――。一年、俺は待てるんだろうか・・・・・・。
「こいつさ、もう領地のほうに二人でゆっくりできる別荘を建ててるんだぜ」
アインが意趣返しにか、俺が内緒で建てていた別荘のことをエリザに教えてしまった。アインにだって内緒にしていたのに――。
俺は、エリザより赤くなってしまった顔を隠すためにゴホンと咳をして、うつむいた。
「あはは――」
愛の伝道師は笑う、その声は酷く楽し気だった。
結局、騎士団のほうでは、魔物は俺が退治したことになった。まぁ、国王陛下が倒したとか違う場所にいるはずのアインが倒したとかそんなことをいうわけにもいかず、ここにいるはずの俺が剣で・・・・・・ということになった。
国王陛下はエリザを抱いて帰ってしまった。俺は、父親役であるところの国王陛下にすら焼きもちを焼いているのである。
帰ったら、薔薇の花束を持っていこう。彼女に似合いそうだと買ったまま、婚約者でもないので渡せなかった髪飾りも、指輪も持っていこう。
俺は、一緒に来た部下達には何も言えず、ただひたすら王都への道を急いだのだった。
終わりませんでした・・・・・・。そして肩こりが片頭痛に進化し、やばい感じになっています。6は、日曜日くらいになりそうです。