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リューク 4

こんにちは。読んでくださってありがとうございます。

 夢というには生々しい、妄想というには些かこじんまりしたお湯の中を揺蕩うような、そんな世界に捕らわれていた俺の耳に、大事なエリザの声が聞こえた。

 

「私はリュークが好き! アインだって好き――。エド、・・・・・・お父様だって、大好きなんだから――巨木あなたなんかに、私の幸せを奪ったり出来ないんだから!」


 ・・・・・・そこは夢なんだから、俺の事が好き! だけでいいと思ったところで、胸が痛くなった。

 可愛いエリザ、困った顔でいつも俺を見つめていたが、あれはいつからだろうか。昔は、無邪気に俺の事が好きだと満面の笑みで、声で、態度で表してくれてものだった。


 ――ふと、嫌なことを思い出した。


 騎士団の鬼のようなシゴキの最中に気を失った俺は、目覚めたと同時に同僚である女に口付けられていたのだ。横たわる俺に馬乗りになって、気を失っている俺を気付かせようと水を送り込んできたのだ。


 俺は驚きと、いきなり入って来た水で噎せてしまって、女を突き飛ばした。


「酷いわリューク。起こしてあげただけじゃない」


 女は、二十代も半ばだったが、初物喰いが大好きという困ったやつだった。あの頃からじゃなかっただろうか・・・・・・。気のせいだといいのだが――・・・・・・。


 エリザが、泣いている――?


 小さな声ではない。エリザがそんな風に泣くなんてありえないことだと思ったところで、目が醒めた。魔物の粉は幻覚だけでなく、身体の感覚をなくす効果もあったようだ。


 目が醒めたと同時に全身の激しい痛みに、身体が硬直した。腕が脱臼している。というか、折れているようだった。


「・・・エリ・・・ザ」


 何とか名前を呼ぶと、何度も俺を呼ぶ。


「リューク、リューク、リュー・・・クゥ・・・・・・」


 何とか身体を起こすと、いないはずのアインが横たわっていた。エリザは手を真っ赤に染めて、アインの腹を押さえていた。

 血が、エリザのものじゃないということに安堵した。


「エリザ、息、して――。吸うんじゃなくて、吐く――。大きく吐いて――」

 

 俺は、必死で身体を動かした。摺りずりと這いずるようにエリザの横に辿り着くと、アインの青白い顔が見えた。


 想像はしていたが、アインもやはり国王陛下エドワードと同じように不老不死なのだろう。出血の量が、痙攣をしていてもおかしくない、いや、鼓動を止めていておかしくないくらいなのだ。


 エリザがパニックから呼吸できなくなっていることに気付いて、俺を信じて欲しいと願って、吐くことに集中させた。やがて、エリザが落ち着いてきたから、エリザの手を握りつつアインに治癒の魔法をかけた。

 レイザックの血に流れる魔法の一つで、他人の魔力を扱うことが出来るだけでなく、それを本来持っていない治癒に使えるというものだ。ただ、この魔法は諸刃の剣と言っていい。

 レイザックの血を護るため、秘密にされている。

 俺も実家にいるときに、父に聞いたもののそんなことが出来るようになるとは思っていなかった。他人の魔力を受け入れること自体、禁断の魔法なのだ。父も、俺もそのことは知っていても国王陛下が使うまで、本当にある魔法だと思っていなかった。


 この国には、貴族はほとんどいない。けれど、そのどれもが建国の時に国王陛下の命令に従って、国に血を捧げたという。


 国王陛下が死んだ際に、国を護るための人柱のようなものになるという、血脈に流れる契約だという。


 魔力はエリザから優しく流れてくる。アインの血をとめ、身体を動かせるほどに回復したところで、俺は自分の激しく痛む腕も治した。きっとエリザは立つことも出来ないだろう。彼女を抱き上げることが出来る好機を逃すつもりはない。


 真横にある顔にドキリと心臓が跳ねた。こんなに側に寄ったのはいつ以来だろう。顔を傾けるだけで、小さな赤い果実のように瑞々しい唇に届きそうだ。


 エリザは、恥ずかしそうにそっぽを向く。逃げてしまった小さな小鳥を捕まえるように、俺は策を弄した。痛みに呻く振りをしたのだ。


 痛みなどもうないのに――。


 案の定、心配したエリザがこちらを向いた。真剣な顔は、もう涙でぐちゃぐちゃなのに、何故こんなに愛おしいのだろう。


 愛おしい・・・・・・。


 俺の心がエリザを求めていた。エリザの唇にそっと自分の唇を寄せた。

 触れるだけの口付けだ。


 泣きたくなる――。愛おしさが溢れてしまいそうになる。


 俺は、国王陛下エドワードと約束をさせられていた。二十歳になるまで、エリザに愛を告げることも、愛を確かめるための接触もしてはいけないと――。


 

「エリザ、愛しています――」



 エリザは、私の告白に止めていた息を飲んだ。花が咲きほころぶ瞬間というものがあるというのなら、今この時だろうと思えるほどの微笑みを浮かべたエリザの額にコツンと額を合わせた。


「私はっ」


 慌てたようなエリザに、俺は少し意地悪なことを言った。


「いいです、アインのほうが包容力があって、大人で・・・・・・目尻の黒子が色っぽいとかいわれているのは知っています――。でも俺は・・・・・・」


 アインのことも好きだと知っている。でも俺のことだって、想ってくれていると信じている。


「――ちょっ、婚約者の横で何してるのか聞いていいかな――?」


 目覚めていた癖に目を瞑って楽しんでいたアインが、呆れたように言葉を掛けてきたから、エリザは驚いて悲鳴を上げた。可哀想に、半分以上涙目だ。


 アインに文句を言われても、俺は全く気にならなかった。


 エリザを抱き上げて、もう一度口付けると、エリザは手で俺の顔を押し返してくる。そちらのほうが余程心が痛い――。


 国王陛下を心配して巨大すぎる最早天に届こうかとしている魔物を必死で見つめるエリザ。エリザはいつも国王陛下を想っている。

 だれかを投影しているような素振りもないでもないが、俺はエリザに昔のことを聞いたことはない。


 言いたいと、俺に聞かせたいと思うまで待っていようと思う。


 国王陛下のことは、本能的に恐怖している素振りをみせる。俺も魔法使いの端くれだから、国王陛下が常に魔法をまとっていることは知っている。けれど、なんのために魔法を使っているのかはわからない。


『愛の伝道師、エドワード』


 そう名乗りながら、多分だれよりも愛からは遠いのだろう。


 巨大な魔物は、ハラハラと幹を崩壊させながら、その育ち過ぎた身体を砕けさせていった。俺も、アインも、多分この結末は目覚めた瞬間に気付いていた。

 強大な魔力は、わが身を滅ぼすことになりかねないと、エリザを見ていればわかることだ。長い時を生きてきた国王陛下が、魔力と同じくらいの負の感情を持っていたとしても不思議ではない。


 エリザを愛しているというだけで、俺はあんなに負の生気を生んでいたのだ。人を想うということは、どちらに感情が転んでもおかしくないことなのだ。


多分次で終わります。明日までに間に合うかなぁ。もしかしたら、明日は更新できないかもしれません。肩こりと相談です(笑)。

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