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続きです。企画が今日終了しますので、全話投稿いたします。あわただしくて申訳ありません。

 アインが第二騎士団の一部をまとめて出かけて、リュークが第三騎士団を連れて行ったから、城はとても静かだ。


 とはいえ、日常はとても穏やかに流れていく。


「姫様、リューク様に婚約者が出来たときいたのですが、本当のことなんですか?」


 城に訪れる貴婦人は、私が相手をすることになっている。この国は特殊で、貴族と呼ばれる人間は他国に比べればとても少ない。八つくらいだろうか。建国に携わったもの達の子孫で、なにかしら役目があると国王陛下に聞いたことがある。


「え、リュークに?」


 アインという婚約者がいながら、リュークのファンクラブに入っている私には同好の志が沢山いる。騎士団というカテゴリーで人気なのは、リュークとアインとクリスティーナだ。クリスティーナは女ながら、優しさや格好良さなどで実は一番人気が高い。


「ええ、リューク様も伯爵家のご子息でしょう。ついに故郷の方に婚約者というかたが出来たとか――」


 ハンカチを振り絞って、アニーが噂について話してくれた。

 

 リュークの家の領地は西の要マズワールだ。そこに婚約者という人がいて、今回の遠征のついでに結婚するとかしないとかいう話だった。


「リュークに何も聞いていないわ」


 アインだけでなく、私はリュークともよくお茶をする。アインとは違って、話すのはもっぱら私で、リュークはあまり私のほうも見てくれないけれど。


「結婚される方のために本家とは違う場所に家を建てていると聞いたのです」


 アニーは材木を扱う商家の娘だから、知りえたのだろう。


「・・・・・・リュークが――」


 私の思わずこぼれた呆然とした声に、皆の悲鳴が被さる。私をいれて五人とはいえ、その声は大きかったのだろう。庭だというのに、あちこちから視線を集めてしまった。


「でも、姫様にお話ししていないのなら、唯のでたらめかもしれませんわね」


 シーリンは、もう結婚していて大人びた人だから、そう答えを出した。


「・・・・・・リュークは、私には何も話してくれないわ」


 未だにリュークの好物も知らないのだ。嫌いなのは、酸っぱいものだけど、それだって知ったのはアインが言ったからだし、文句を言わずに食べるし。


「姫様が結婚されてから――と思っているのかもしれませんわね」


 私は今十九だから、あと一年もしたら結婚できる歳になる。

 アインが私の夫になるのだと・・・・・・、そう思っても想像すらできない。


「アイン様とリューク様が姫様を争って決闘したら、姫様はどちらを応援します?」


 ジーニアの意地悪な問いに、私は思わず口ごもってしまう。


「そんなのリューク様に決まってますわ! 私なら夫とリューク様が争ってくれたら、リューク様を応援しますわ」


 シーリンは私がどちらと答えてもいいように先にそう言ってくれた。夫婦仲がいいことは皆が知っている。


「私、私は――」


 それでも私は何も言えない。リュークがそんなことをしてくれるはずがないこともわかっているのに、なのに、縋りたくなるのは、私の甘えだ。そして、アインはきっと気にしない。私がリュークを見つめていても、平気なのだ。


「姫様は、きっと素敵な恋愛をして、素敵な結婚をされますよ」


 魔法使いでもあるミリアがそう言えば、皆「そうね」と頷く。愛において、魔法使いが一番詳しいからだ。


 どんなにリュークが好きでも、私は婚約者がいて、国王の仮初の一人娘だ。結婚が自由になるとは思えないし、リュークに好かれているとも思えない。


「ありがとう」


 私は、あの魔法使いが命を懸けて生かされているこの状況に満足するべきなのだ。




 リュークが行ってから三日だ。馬の脚を考えて、ゆっくり行ったとしても現地についているはずだ。


 ウィンディール国には、時折魔物と呼ばれる不思議な生物が発生する。その実態は、アインを筆頭にした国の精鋭にしか明かされていないらしい。勿論、私は見たこともない。


 この前魔物が現れたのは東の地域で、大きな犬のような感じの獣のようだったという。魔力のひずみが形となったとか、他の国の刺客だとか噂はあるが、噂に過ぎない。前回もリュークが派遣されて、魔法のグランドクロスで仕留めたという。


 国王は、何故戦わないのだろうと、疑問に思う。魔法使いなのに――。最強だと聞いたのに、愛についてしか彼は動かないという、が、本当のところはどうなのか私にはわからない。


 国王は、国を覆う魔法防御壁を張っていて、そのおかげでこの国は安全だということは、私は知っている。その魔力の大きさを考えれば、最強だというのは、きっと本当のことなのに・・・・・・。


 私は、国王に初めて会った時に、「あなたなんか大嫌い」と叫んでから、実は一度も「お父様」と呼んだことはない。あの人は、些細なことだと思っているようで、私のことを「俺の可愛いエリザ姫」と言う。あの獰猛な視線で、あんなに恐ろしい気配を持っているのに、皆はそれに気付いていない。彼は常に魔法を使っているからだ。

 皆はあの優しい、穏やかなと国王を評する。気付くのは、彼の魔法にかからない強い魔法使いのみ――。リュークですら、あの人の本性を知らない。


 あの人は酷い。私が眠っている間に私に誓約をさせて、リュークに私の魔力の全てが流れ込むようにしてしまった。元々私は搾取されるだけの人生を生きていたから、それ自体に不便を覚えたことはない。ただ、リュークには申し訳ない。彼はその魔力を留めておくことができるが、それにも限界がある。溢れ出た魔力は、歪となるはずだ。

 だから、彼は危険を承知で魔法を使うために魔物の討伐に赴く。氷の魔力甲冑センスアーマーを身に着け、魔法のグランドクロスで戦う。彼一人でどうにかなる相手ばかりではないから、沢山の騎士達が手を貸すが、怪我をすることだって、命を落とすことだってあるのだ。


 何故、あの国王エドワードは、最強の魔力で戦わないのだろう。



 昼間は、先生ヘイズからお菓子の作り方を教わっていた。国王は、酒とお菓子が大好きなのだ。


「随分上手に焼けるようになりましたね」


 ヘイズは、城のお菓子専門のコックだ。


「ありがとうございます。ヘイズ、これを生クリームで飾り付けをしたらどうかしら?」

「明日の昼のお茶会の時に出すのですか?」

「ええ、明日シーリンたちが来るでしょう。その時に食べてもらおうと思って――」


 ヘイズは、目尻の皺を寄せてニッコリと微笑む。


「それは美味しそうですね。今の時期ならベリーのジャムもつけては・・・・・・、姫? どうされたのですか? お顔の色が――」


 ヘイズが私に触れようとした瞬間、身体の力が抜けたように脚から崩れ落ちた。ヘイズが慌てて抱え起こしてくれたから、私は顔を地面に打ち付けることはなかった。


「あ。あ・・・、リューク――・・・・・・」



 身体の中の魔力が何かに吸い込まれるような気がした――。血の気が引いて身体に冷たい汗がまとわりつく。


「エリザ様!」


 護衛をしてくれていたクリスティーナの悲鳴が聞こえた。私の意識は、暗い闇の中に沈み込んでいく。



「皆で幸せになりたいね」


 その人は、ぼんやりとした瞳でそう言った。


「しあわせ? しあわせってなあに?」

「ん、エリザはわからないかぁ。幸せっていうのはね、毎日明日も今日のような日が続くといいなぁって思うことよ」

「・・・様は、そうおもわないの? わたしはあしたもずっとみんなで・・・・・・」

「大人になったらね、おまえたちはきっと辛い想いをするんだよ。血を繋ぐだめだけに子供をつくらされて――最後まで搾取される・・・・・・」

「さくしゅ?」


 泣きそうな顔になってしまったその人を抱きしめると、「守りたいねぇ。愛する我が子のためになら――、私だって頑張れるよね」と私の耳元で囁く。その人はいつもぼんやりしていたから、そんなにちゃんと話したのはその時が初めてだったように思う。


 私と同じ緑の瞳に金の髪・・・・・・、もしかしたらあの人は私のお母さんだったのかもしれない。


「薬が効きにくくなっている今しか――、もうチャンスはないかもしれない――」


 その人が、毅然と頭を上げて、ふらつきながら立ち上がりる。


「私はお前達を守りたいの、エリザ――」

「・・・様!」




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