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リューク 15

こんにちは。そっと伺いながら、頭を下げる。一年半振りの更新です。どうも申し訳ございません。もうなにを謝っていいやらわかりませんが、よろしければお付き合いくださいませ。

 エリザ姫が体調が悪くて休んでいるというので、アインの監視の元見舞いに行くことを許された。


 国王陛下の側から離れたがらないと思ったけれど、ハルは普通についてきた。


「お前、本当にエリザ姫に手を出すなよ。エドの言うのは牽制じゃないぞ」

「牽制?」

「ああ、エリザ姫に手を出した瞬間に僕のものになるように術式は整えられている」


 俺はその言葉が嘘でないことを感じ取って息を飲んだ。


「またエリザ姫を勝手に――?」

「護るためだ――。お前が思っている以上にエリザ姫は危険なんだ」

「・・・・・・なんでアインが」

『アインの血は凄く美味しそう』


 ハルがアインの匂いを嗅ぎながらそう言う。


「僕は強いからね。お前がエリザ姫に手を出した後にだって、二度目の名前を書き替えることが出来る。それに僕に逆らうと、魔法使いは大抵大変なことになるんだ」

「意味がわからない」

「魔法使いにとって名前が重要な事は知っているだろう? エドは、エリザ姫の真名を知っていたから、エリザ姫に忠誠を誓わせることが出来ただろう? 僕は、真名を書き換えることが出来るから、誰にだって忠誠を誓わせることが出来る」


 見つめた先にいる男は、そんな恐ろしいことをいいながらも普通に笑っている。得体が知れないものがそこにいるような気がした。


『アインは、そんなことしたくないんだけどね』


 ハルの声は、少し大人びて聞こえた。


「だから、エリザ姫に手を出すのはやめろよ。誕生日が来れば、自然とお前の隣に座るようになるんだから・・・・・・な」


 アインはそれきり何も言わなかった。


『エリザ姫ってどんなこ?』


 ハルは俺に訊ねる。


「とても可愛いんだ。優しいし、ちょっとドジなところもあって・・・・・・」

『フフフ、リュークはエリザ姫のことがとっても大好きなんだね』


 馬とも(精霊らしいが)思えない言葉に俺は戸惑う。


「先に行くぞ――」

『待ってよ』


 ハルが駆けていくいくのを見ながら俺は不思議でしかたがなかった。アインは魔法使いにとって脅威であるはずなのに、どうして国王陛下は側に置くのだろうか。それにアインだって、どうしてこの国のために働いているのだろう。呪われ仲間ということだろうか。


「早く来い」


 ぼんやり庭を見ていたら戻って来たアインにコツンと頭を殴られた。


「先に行ったんじゃ?」

「僕だけいってもエリザ姫は喜ばないだろう」


 人を煽るような言葉を楽しそうに言うからアインは質が悪い。


「僕はね、君たちのように運命の相手を探しているんだ。でも時間は山のようにあるからね、少しくらい寄り道出来るんだよ。例えばエリザ姫が僕を愛してくれても、大丈夫なくらいね」

「エリザ姫は!」

「優しい子だよ。同情を愛情として受け入れてくれるくらい」


 アインに対するエリザの気持ちは同情だと言うのか。


「同情とかじゃ・・・・・・」

「うん、エリザ姫は僕のことは兄のように思っているんだろうね」


 そうだ、エリザは多分そんな風にアインを大事に思っている。エリザは、俺と一緒になれなくても、きっとアインが夫だってそれを受け入れるだろう。


「エリザ姫、入るよ」


 アインの声は精霊が届けるから言葉自体は扉に阻まれても聞かせたい人に届く。


 エリザの部屋は客を招き入れる部屋と、書斎と寝室がある。勝手知ったる様子で、アインは扉を開けていく。俺が寝室まで入ることはほとんどない。


 アインに対する国王陛下の信頼は厚い。


「アイン・・・・・・?」


 小さな声は心細げに囁かれたエリザのものだった。


「リュークを連れて来たよ」


 アインにしては珍しい位の労わるような声に俺は内心で首を傾げた。


「リューク・・・・・・? リューク! 無事だった・・・・・・」


 寝台に横になっていただろうエリザが、駆け寄って俺の腕を掴んだ。揺れる瞳を一杯に開いて、エリザは俺の無事を確認するように見上げる。


「エリザ――・・・・・・姫・・・・・・」


 俺は何てことをしてしまったのだろうと、後悔が押し寄せてきた。何がエリザはアインでも夫として受け入れるだ・・・・・・、俺を心配して、やつれて、細い肩が更に華奢になってしまっていた。

 愛しさが溢れ、抱きしめたい、口付けたい気持ちが膨らんでいく。けれど、俺は同じ過ちをしてはならない。思うがままに振る舞えば、国王陛下やアインの気持ちも、それにエリザの気持ちも踏みつけることになるのだ。


「エリザ姫、ご心配をかけました」


 侍女がエリザのショールをもってきたので、それを肩にかけると、エリザは少し頬を染めて、「ありがとう」と微笑んだ。


「さぁ、まだ少し寒いでしょう。お茶をいれましょうか。それともお休みになりますか?」

 

 エリザの顔を見ていると、抱きしめたい衝動にかられるのは、運命だからだろうか。


「どこに行っていたの?」


 エリザの視線を切るように、顔を背けてしまった。見ていると、色々止まらなくなる可能性があったからだが、エリザの微笑みが消えて、俺は内心焦っていた。どうして俺はスマートに距離をとることが出来ないのだろう。


 話を聞きたそうなエリザの手を握り、視線は外したまま居間のほうに誘うと、エリザは素直についてきた。


「あら・・・・・・」


 居間に入るとハルが菓子をいれたバスケットを突いていた。


『リューク、開けて――。ここに美味しいものあるよ』

「リューク、馬が喋っているわ」

『ハルだよ、このこ? リュークの大事な人って。本当だ、とっても可愛いね』


 エリザはハルの言葉を飲み込んで、赤くなった。何でもないように振る舞おうとしたけれど、俺の心をハルが代弁したのだ。


「ああ、可愛い・・・・・・」


 プッとアインが堪えられないというように笑うのが聞こえたが、そこは無視をした。


「エリザ姫、お茶を入れますから、座ってください」

「リューク、僕は濃いめのやつ」

『ハルは、お菓子だけでいいよ』


 外野のほうが自己主張が激しい。

 痩せてしまったエリザのために柑橘系のお茶にミルクと砂糖をたっぷり入れて差し出した。果物たっぷり載ったタルトを侍女が運んできたので、それも前に置く。


「アイン、ハルにお菓子とかあげていいんだろうか?」

「いいよ。食べれないものはない。肉だって平気なはずだ。どっちにしろどれも口にいれているだけのようなものなんだ。実体はないに等しいからね」


 アインには、濃いめの紅茶を入れて差し出す。アインは結構甘いものが好きで、自分でお菓子だって作るのだ。一時期エリザ姫にレシピを教えていたことがあった。どれも美味しいと評判だった。


「美味しいわ、ありがとうリューク」

「上達したよね、どこにでもお嫁にいけそうだよ、リューク」

『これ、美味しい。リューク食べないの?』


 俺の分をハルに上げたのを気にしているようだ。


「俺は甘いものはあまり得意じゃないから、ハルが食べてくれるとありがたい」


 俺が食べるのは、エリザ姫が作った甘さを加減したお菓子だけだ。


「リューク・・・・・・、エドはどこにあなたを飛ばしたの? 私、心配で・・・・・・」

「エリザ姫・・・・・・、俺が悪かったんです。約束していたのに、箍が外れてしまって。心配をかけて申し訳ありません」

『エドはね~、リュークに魔石作りの練習をさせようとしてたの。でもリューク、魔石作るのが下手なんだ。結婚までに出来るようになるといいね。ハルもお手伝いするからね』


 フンフンと、更に缶にはいっているクッキーを匂いながらハルはエリザに告げた。


「エドなんか嫌い――。私が聞いても何も教えてくれなかった。いつもそう・・・・・・大事なことは教えてくれない・・・・・・」


 エリザは憤っているというよりも、寂しいのだ。国王陛下の力になりたいのに、教えてもらえないから。けれど、気持ちもわかる。


「仕方ないよ。エドはエリザ姫のこと大事にしすぎてるから。危ないことは全部何もさせたがらない。まぁ、もっとも僕もリュークも同じだけどね」


 アインはエリザにニヤリと笑いかける。顔がいい人がその笑いをすると、裏が有るように見えて仕方がない。


 けれど、結局俺たちは同じ穴のムジナなのだと、認識した。

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