リューク 14
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ロウを送った国王陛下が戻った。
目覚めたハルは、あんなにボコボコにされたにも関わらず、国王陛下に付き纏っている。
『エド、どこいってたの?』
「ロウを送って来た」
『エド、俺ね、エドと一緒に行きたい』
ハルは、国王陛下が大好きなのだろう。纏わりつくとうっとおしいと言われて、また仔馬サイズに戻っているが、その様はまるで犬のようだった。
「・・・・・・お前、一応この森の主だろう――」
『知らなーい。それにここはもう終わるよ――』
「終わる?」
『うん、森の端から崩れていってる――。普通の森になるんじゃないかな?』
「ここはここで使いやすかったんだがな――。仕方がない。ロウの研究のための家は、場所を変えるか」
なんだか非常に仲がいい二人に、俺は反対に居心地が悪い。
「しつこいとは思うが、二十歳になるまでエリザに手を出すな。出したらアインの嫁にするからな。俺の前でエリザとイチャイチャするな。反射でお前を呪いたくなる」
何気に注意事項が増えていた。反射で呪うって・・・・・・。
俺の背中が寒さを感じて震える。騎士にあるまじき弱さだ。
『口だけだよ。エドはリュークのことだって好きだからね――』
「余計なことをいうな、気持ち悪い」
ハルといると、少しだけ皇帝陛下の口が悪くなるようだ。
『ハルは知ってるもーん』
ハルがハルレオン様であったころ、二人はどんな関係だったのだろう。多分、あの巨大な馬に乗っていた男性だったらしいから大きな人で、『もーん』とかは言わなかっただろうけど。
「帰るぞ――。エリザが身体を壊すくらいに泣いているからな――」
俺は、後悔で拳を握りしめた。
俺が自分を抑制出来ていたら、エリザを泣かせたりしなかったはずだ。自分の欲でエリザを苦しめたことに情けなさと後悔で一杯になる。
『リューク、人を好きになるっていうことは苦しいけど、美しいよね』
ハルが、ハルらしくない口調で俺を諭すように呟いた。
「お前が言うな――!」
何故か国王陛下が怒って、そこに落ちていた木をハルに投げつけたから、俺は慌てて飛びのくのだった。
「あれ、リューク、帰って来たのか。しばらくエリザを慰めながら遊べると思ってたのに」
確実に俺に対する嫌味だろう言葉で、国王陛下の居室に戻った俺とハルを迎えたのは国境警備に行っていたアインだった。
「・・・・・・それなに・・・・・・」
アインがハルに気付いて、凄い目で見つめた。
『ハルだよー』
ドカッと音がした。ハルの側にいると何かしら物が飛んでくるようだと、避けながら思う。
アインが短剣を投げつけたのを軽く身をかわし、ハルが国王陛下の後ろに逃げ込んだ。
「僕には、あの馬鹿に見えるんだけど。エド、それもらっていい?」
アインは笑いながらハルに近付いた。アインの雰囲気が一気に変わったのに俺は驚いた。いつも飄々としていて、陽だまりに眠る猫のような彼が、まるで悪の帝王のようだったからだ。
「アイン、アイン、リュークが目をむいている」
「リューク、これは馬じゃない――」
いや、そこは俺だってわかってるよ、アイン・・・・・・。
『エド、この人怒ってるよ!』
精霊使いでもあるアインの怒りは、精霊だろうハルには脅威なのだろう。見るからに慌てふためいている。
「まぁ怒るよな・・・・・・。お前、アインのことは覚えてないのか?」
『ハルは、エドしか覚えていないよ!』
そんな偉そうに覚えてないことを誇るハルが、可愛いんだが、アインには火に油を注いだようだ。
「おーまーえー! 自分勝手にも程があるぞ」
アインは、怒りが一瞬にして醒めてしまったようだった。明らかにガックリと肩を落とした。
「俺に呪いをかけたことは覚えてないのか?」
『呪い? ってなに――』
一緒に国王陛下の肩が落ちた。
呪いをかけた本人? が覚えていなくて、しかも何百年も前のことだというのだから、アインの怒りが続かなかったのも仕方のないことかもしれない。
「エド、これ何?」
改めてアインが国王陛下に尋ねたが、頭を振る仕草が何とも怠そうだ。
「『魔の森』でリュークが拾ってきたらしい。どうもレオの馬とレオの意識の一部が混ざったまま眠りにおちてたようだ――」
「・・・・・・ご愁傷さま――」
アインの言葉に国王陛下が項垂れる。
「僕の精霊にしていいなら、許してやるよ」
傲慢に言い放つアインに、ハルは『許さなくてもいいもーん、ハルは・・・・・・エドのものだもん』と国王陛下の後ろから顔だけだして、叫んだ。
「この馬鹿馬が――」
アインは、美形なだけに本気で怒ると怖い。
「アイン、お前がリュークに魔力石の作り方を教えなかったのが悪い。それはリュークのにものした。落し物は拾ったやつのものだろう?」
「持ち主がお前でもか?」
「そうだ――。エリザのために残っていたとも言えるだろ」
「魔法使いでもなかった、予知の力など持っていなかったのに?」
アインの疑問に国王陛下は笑った。
「そうだ――。お前の従兄弟はそんな器用なやつじゃなかっただろう?」
「好きなやつに『愛している』の言葉すら言えない情けないやつだったな」
アインは、深くため息を吐いて、ハルを見つめた。
ハルは居心地悪そうに身じろぎしていた。
そして、ハルは俺の預かりになることが決まってしまったのだった――。




