リューク 13
こんにちは。読んでくださってありがとうございます。
国王陛下が来たのは五日目、ロウが言っていたよりも後だった。きっと俺をやきもきさせるためだろうとフユは言ったし、俺もそうだと思っていた。昨日は戻って来た魔力を使ってまた魔力石を作る練習をした。
バリンバリン割っていくそれを、何もなかったように戻って来たハルが美味しそうに食べている。
やはり精霊なんだな・・・・・・と魔力石になりえなかった残骸を前に目を輝かせているハルに確信をもった。もっとも喋る、浮く、消える馬なんてものはいないから、精霊以外にはないとは思ってはいたが。
「なんだ、これ・・・・・・」
扉を開けた国王陛下は、ハルが魔力石を食べているのを見て顔を引き攣らせて、絶句した。
「遅いよ、待ちくたびれたよ」
実際昨日から管を巻いているロウを無視して、国王陛下は『ハル』を凝視する。
「・・・・・・お前は――!!」
国王陛下は、ハルの尻尾を掴んで力任せに放り投げた。精霊とはいえ、実態のような姿がある仔馬が飛んだことに俺もロウも一歩後退して口を閉ざした。
『止めてよ! あ・・・・・・エドだ! エドワード!』
威嚇するように一瞬、身体を低くしたハルは、次の瞬間に国王陛下の顔を見て、嬉しそうに跳ねた。喜びに満ち溢れているのが俺にもわかった。
「お前、そんな姿でなにやってやがる――」
『えええ、エド、口悪くなったねぇ』
ハルは国王陛下の怒りをものともせず、フンフンと匂いを嗅いでいる。
「それは失礼した。どうぞ、お許しください」
国王陛下の怒りは口調にも表れていて、正直ロウも俺もここに居たくない・・・・・・が、席を外す勇気もなかった。
『そんな敬語をつかって欲しいわけじゃ・・・・・・ないもーん!』
グイグイと鼻面で国王陛下を押しつけてくるハルを押しのけながら「どこで拾ってきたんだ、これを」と尋ねられた。
「森で・・・・・・散歩をしていたらついてきました。馬らしいです・・・・・・」
『ハルは馬だよ、どこからどうみても馬だよ』
凄い殺されそうな眼光を浴びて、流石にいたたまれなくなったころ、国王陛下はため息をついた。
「ハルは馬か・・・・・・こんな小さかったら、レオを乗せれないんじゃないか?」
レオという言葉に目を輝かせて、ハルは『レオは大きいからね』と国王陛下に笑いかける。
見る見るうちに、可愛かった仔馬サイズの馬から、俺が今まで見たことのないくらいの大きさの馬に変身したハルは、『これくらいだったけ?』と国王陛下に確認をする。
馬は、サイズ変更とか出来ないんだけど・・・・・・。
「ああ、それくらいだったら、俺も心置きなく殴れるさ」
どこからともなく長くしなやかな鞭を取り出した国王陛下は、ベシッ! バシッ! とハルを叩いた。それも恐ろしく冷たい表情でだ。
『や・・・エド止めてよ!』
「お前が呪いなんかかけるから――、俺がどんなけ苦労したと思っているんだ! 何百年居眠りこいてやがる――!」
俺とロウは、巨大な馬と国王陛下の戦いに、「逃げるぞ」という懸命なロウの提案で退却したのだった。
そこには、一足先に家から出ていたフユが困ったように佇んでいた。
「フユ、どうしてエドはあんなに怒っているんだ?」
「まぁ、どうしたんでしょうね。私は魔法人形ですから、あまりよくわからないのですが・・・・・・。ハルさんは、ハルレオン様のようですわね」
「ハルレオン様って・・・・・・」
「この国を建国した人の一人のはずだが。なんでそんな人が国王陛下に呪いなんて」
窓ガラスが割れて、扉が吹っ飛んだ。何かが爆発して、やがて家が瓦解した。
「ああ――。俺の研究――」
瓦解した木や石の下から、へたり込んだ巨大な馬を引き摺って、涼しい顔をした国王陛下が歩いてきた。微かな埃すら纏わない彼に俺は魔法使いとしての格の違いをまざまざと見せつけれたのだった。
「エド、俺の研究!」
ロウの泣きそうな怒りの声に、国王陛下は「ああ、すまないな」と悪びれた様子もなく謝った。
「次までにこの家も中身も修復しとくから」
そんなことが可能なのだろうかと、もはや瓦礫と化した家を見つめた俺に、国王陛下は「お前の強運には呆れる」と笑いを含んだ渋い顔をされた。
「なんの・・・・・・」
「この馬鹿がいれば、ここじゃなくて王宮で魔力石の練習が出来るってことだ――」
「ハルは一体・・・・・・」
精霊なのに目を回しているハル。
「これは・・・・・・、精霊というか・・・・・・。この森が出来た時、ハルレオンは死んだんだ。馬も一緒にな――。どうもハルレオンの一部と馬の一部が混ざった状態で眠っていたようだ。俺はずっと・・・・・・ハルレオンがもう一度生まれてくるのだと思って・・・・・・、待っていたんだがな――」
国王陛下の瞳はハルを見つめていた。とても大切なものを見るような目なのに・・・・・・、何故こんなに酷い状態までやり込めたのだろう。
「陛下――」
「だが、二十歳になるまでエリザに手を出すことは許さないよ。エリザに口付け以上のことをしたら・・・・・・エリザがどんなに泣いてもアインに嫁がせるから」
国王陛下は笑いながら俺にそう言った。
本気だ――。
俺は心に命じなければならない。次はないのだということを・・・・・・。
「アインに?」
反応したのは俺ではなく、ロウだった。
「ロウ、なんだ焼きもちか?」
揶揄うように言った国王陛下にロウは「なんで俺が!」と目を吊り上げた。
「アインはロウの育ての親なんだ」
一瞬、ロウが可哀想に思えた。あの男に育てられたという割に真っ当に育ったなと思わないでもない。
「育ててもらった覚えなんてない!」
「弄られてただけか」
ロウは、口を開けたり閉めたりしながら言葉を探していたが、「もういい・・・・・・」と口をつぐんだ。
「魔法技師はもうほとんど残っていないからな。ロウの父親が突然亡くなって技術が途切れそうになったのをアインに任せたんだ」
だから父親というより師匠に近いのだと国王陛下は言った。
ロウと俺は、習ったことは違うがアインを師匠としていることは一緒のようだった。それにしてもアインって何でも出来るんだなと、改めてエリザをとられないように気を引き締めようと、俺は心に誓うのだった。
うふふ・・・・・・肩こりからか、また体調不良でございました・・・。健康な身体が欲しい・・・・・・。




