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リューク 11

おはようございます。読んでくださってありがとうございます。

「はぁ・・・・・・」


 バリン・・・・・・とガラスと陶器が一緒に割れたような音が響いた後、俺の口からは意識のないため息が漏れた。


「・・・・・・ちょっと休憩したほうがいいよ。顔色良くないし」


 ロウは自分の仕事の合間に、家に籠って石を相手にしている俺を覗きに来た。

 風車はもう直っているから俺の手はいらないはずだが・・・・・・と顔を上げれば、心配したような顔がそこにあった。


「ああ・・・・・・。もう石がないし、何より魔力が限界そうだ――」


 俺はもう昔のようにエリザの魔力を把握出来ないということはない。エリザが普通に生活できるだけは残せているはずだ。どれほど焦っても、魔力には限界があるからだ。


 魔力を溜めることのできる石というのは、ある一定以上の硬度がいる。魔力の負荷を石が耐えることが出来なければいけないからだ。耐えれないことを心配して中途半端な魔力しか注がないと、輝きは鈍く、魔力石としての価値はなくなる。たまに、一度ではなく、何度かにわけて魔力を注げる石というものはあるが、正直な話、国宝級の価値となる。


 バリンバリン割ってしまった残骸を前に俺は落ち込む。


 今日と昨日だけで一月分の騎士団長としての報奨金を失ったことになるのだ。


「あれだよねぇ。魔力石に力を注ぐことのできる人間が少ないのは、練習のための石を用意できる人間が少ないからだよねぇ」


 魔力石は便利だと魔法使いなら知っているが、それでも魔力石が少ない理由はそういうことだ。一度や二度で魔力石を作れるようになる人間がいれば、それはもう天才としか言いようがない。そして、高い魔力石の元となる石を手に入れてそれで練習しても、失敗すれば魔物を生んでしまうことになりかねない。


 比較的精霊魔法の使い手が、魔力石を作るのに向いていると言われているが、それもどうかはわからない。精霊は砕けた魔力石を食べることが出来ると言われているから、生き残っているだけかもしれない。


「何故溢れてしまうのかわからないんだ・・・・・・」


 水をコップに注ぐほどに簡単なことなのだ、本来は。ただ、そのコップが樽の大きさなのか、小さな掌サイズのものなのかがわからないだけで。それを表面張力で零れないくらいの魔力を注ぐのだとアインは言っていた。


「アイン様の教え方が下手なのではないですか?」


 フユは、俺に昼食を用意して部屋に持ってきてくれてそう言う。


「アインは天才だからなぁ」


 何故か俺の部屋でロウも食事を始めたので、三人でおしゃべりをした。俺の気を紛らわせるためだと思う。


「アインは・・・・・・、精霊に愛されてる」

「まぁ、精霊に愛される血を持ってるからねぇ」


 ロウはどうやらアインのことを本当によく知っているようだった。


「血? 竜の血でもひいているのか?」


 遠くても竜の血をひくものは、精霊に愛されるという。俺の血筋にも多少なりとも竜の血は入っているはずだ。


「竜の血は魔法使いなら多少は入っているだろうけど」


 ロウはそれ以上は言わなかった。俺もアインがいないところでアインの話を根ほり葉ほり聞くのもどうかと思ったので、それ以上は訊ねなかった。聞きたければ、アインに聞けばいい。答えてくれるかは定かではないけれど。


「リュークは、エドが来たら帰るのか?」

「いや・・・・・・多分帰らない」


 エリザは心配しているだろう。心配しすぎて身体を壊さなければいいのだけれど。今はまだ春だから、エリザは不安定なはずだ。


「姫様のために、ここで頑張るのですね?」


 フユが微笑む。昔から俺がエリザのことを見ていると、こんな風に微笑んでいた。


「ああ。俺は約束したんだ――」


 何も知らないまだ見習いだった頃。護ってみせると、国王陛下に啖呵を切った。偽りではない誓いだ。

 エリザが自分で選んで忠誠を誓うというのなら、それを止めるつもりもない。けれど、それしか道がないというのでは、彼女エリザを護ることにはならないのだ。


「リューク、魔力が切れたのなら、森を歩いてみるといい。ここは、竜の魔力の残った森だ。リュークが気付かなかったことだって、何かわかるかもしれない」


 元々この小さな大陸は、竜の力で浮いていたという。


 『レオンの眠る森』、魔法がかかった不思議な森。魔力のないものはそこに森があることすら気付かないという。


「ああ、昼からちょっと出かけてくるよ」


 その言葉の通り、俺は水ともしもの時のために携帯食料をもって家を出た。


 

 魔力のことについて、俺はあまり考えたことがなかった。小さな時から魔力の量が多かったなら、実家にいる間にもっと勉強していたと思うが、俺が魔力を扱えるようになったのは、エリザと出会ってから、魔力の受け皿として契約してからのことだ。


「エリザと出会わなければ、俺は今どんな人生を歩いていたんだろうな」


 エリザのいない時間など考えることも出来ない――。


『――と出会わなければ――』


 耳に木霊したのは、俺の声ではなかった。


「だれだ!」


 こんな森に人がいるとも思えないが、いないとも限らない。


『――と出会わなければ、違う道を歩いて・・・・・・』


 声は聞こえるが、誰の気配もしない。


『エ・・・・・・と出会わなければ――』


 今はまずい――。今、エリザの魔力はギリギリまで魔力石を作る練習のためにつかってしまった。使えば、エリザは生活に支障をきたすだろう。


「でてこい!」


 俺は魔法剣グランドクロスではない、短刀を抜いた。魔法剣グランドクロスでしか倒せないものでないことを祈りつつ、構えた。


 風が、吹いたと感知したはずなのに、実際には木々は揺れなかった。

 だから、こいつは動物ではないのだと、気付いた。


「お前はなんなんだ――・・・・・・」


 仔馬がそこにいた。真っ白な身体の赤い瞳の俺の腰くらいの体高しかない仔馬だった。


『ハル・・・・・・』


 口元は動いていないのに、その馬が喋ったように感じる。


「精霊か――」


『違うよ、ハルは馬だよ』


 音のしない蹄は、微かに宙を浮いているようにみえた。


「馬はな・・・・・・。人間の言葉は喋れないんだ――」


 馬の目だというのに、確かに俺には目を瞠って驚いたのがわかった。


『ハルは・・・・・・レオの馬だよ』


 これが人間の子供だったとしたら、うわーんと泣き声を上げていただろう。その馬というか精霊というかは、泣きながら走って行ってしまった。暴風が俺を襲い、投げ飛ばされ、受け身をとったときには、そこには何も存在していなかった。


「なんなんだ・・・・・・俺は、精霊は見えないはずなんだが――」


 それでもあれは、馬の形をした風の精霊だとわかる。


 魔の森、恐るべし――。

 しばらく呆然と立ちすくむくらいに、俺は驚いて馬の去った方向を見つめていたのだった。

 


えっと、ファンタジー大丈夫でしょうか(汗)。竜帝なんちゃらは、ずっと昔から温めてきたものの一部だったりしますが、何分人様に見せる予定のなかった話の片鱗なもので、色々矛盾だったりどうなってんだよ、なんだよその何でもオッケーな設定は・・・・・・みたいなものが出てくるかもしれません。そのあたりは軽くスル―でお願いします(笑)。

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