リューク 10
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その日は風車の朽ちた部分を板で補強をした。騎士団といえば聞こえはいいが、実は土木工事も仕事の範囲だ。国を護るというのは隣国からの派兵を防ぐだけではない。この国は国王陛下の魔法の護りが大きいから、どちらかというと自然災害などの救助や橋の補修などが多かったりする。騎士団長になる前は、よくこうやって大工仕事もやったものだった。
「リュークは器用だなぁ」
ロウは自分の魔法技師としての作業を進めているから、補修はほぼ一人で行った。二人で食事をするときに、助かったとロウにえらく感謝された。
「あの風車をどうするのですか?」
「ああ、あれは風の強いエレメルの村で使ってもらおうと思っているんだ。あそこは山から吹きおろす風が凄いだろう? でもそれだけじゃ風のすくない時期は使えないから、風の精霊が遊ぶための・・・・・・音遊びできるような仕掛けを作ろうと思っているんだよ」
「精霊が気にいれば、ずっと使えるということですか」
「ああ、最初に精霊が集まる魔力石を埋めてね。精霊を集めるのは、俺では無理だから」
「魔力石ですか・・・・・・」
魔力石については、少なからず興味があった。
魔力は、石にとどめることが出来るという。俺は何度か試しにやったことがあるのだが、何故か石は必要以上の魔力を吸いこもうとする習性があるらしく、俺とエリザの魔力を吸えるだけ吸って砕けてしまった。
砕けた石の欠片が入ってしまった植物や動物なんかが魔物と化してしまうことがあるのだ。俺が砕いてしまったものは、アインが精霊に食べさせてくれたから、魔物になることはなかったけれど――。精霊は食べてしまっても魔物になることがないらしい、というか精霊自体、俺には見えないから魔物になっていてもわからないが。
「リューク、魔力石作ってよ」
ロウは簡単に言う。まるで晩御飯作ってよ、みたいな気軽さで――。
俺の眉間の皺に気付いたのか、「出来ないの?」と伺うように訊ねる。
「俺がやると、石が割れるんです・・・・・・」
「ああぁ、リュークって力任せぽいもんねぇ」
俺の何を知っているのだろうと思うが、確かに魔法剣はかなり力技だ。剣と言い、剣の形をしているものの、切れた魔物はまず原型を留めていない。良くて斧でぶった切った、悪くて槌のようなもので叩きつぶしたようになる。あまりエリザには見せたくない形状だ。
昔はそうでもなかったのだ。魔法剣だと知らなかったときは。今は人間相手に魔法剣は使えない。
「力任せというわけでは・・・・・・」
「でも制御できてないから魔力石が壊れるんだよ。アインは何しているのさ。魔法剣士の指導はアインの仕事だろう?」
そうなのだ。国王陛下は基本武器を使わないから、最低の魔法使いであるところの魔法剣士は、アインが指導している。前騎士団長がアインのことを知っていたのもグレンハーズ様が魔法剣士だったからだ。
「教えたもらってはいたのですが――」
「アインの仕事怠慢だねぇ」
ロウはアインに何か恨みでもあるのかアインを扱き下ろしていく。俺はそれには頷けなかった。
「俺の才能がないんです・・・・・・」
そう言うしかなかった。
「リューク様、ロウ様のいうことは適当に聞き逃していたらいいんですよ。ロウ様は、アイン様に昔弄られすぎて、ちょっといじけているだけなんです」
「そうじゃないだろう、フユ、間違っているよそれは。アインは、本当に嫌な奴なんだよ」
「ロウ様は、大好きな人に告白しようとして、その人が実は意地の悪い人だったというのを教えられて、拗ねているんです」
「フユ! リューク、俺はそんな狭い心の持ち主じゃないよ。一回じゃないんだ。俺が恋するたびに邪魔しやがって――」
・・・・・・それは、ロウの女を見る目がないだけじゃ・・・・・・と言いたかったが、懸命に口を閉じた。
「ロウ様は、女運がないんですよ。二十歳の魔法でエドワード様に運命の人を探してもらうまで、散々でしたからね」
フユは容赦がなかった。ロウは、うつむき加減でフユに恨めし気な目を向けている。
この国には、二十歳の魔法というものがある。
二十歳になったら、一つだけ魔法で願いを叶えてもらえる機会があるのだ。
俺の願いは、『自分の運命の人を知りたい』だった。俺にはエリザしかいないと思っていたが、もしエリザに他の(例えばアインだが)運命の人がいるのなら、俺は諦めなければならないからだ。
だが、国王陛下は「今はまだ未知数だから駄目」といって教えてくれなかった。
俺がなのか、エリザなのか、他の何かなのか・・・・・・。未知数というのは、どういうことかと聞いても曖昧に微笑んで、国王陛下は何も言わなかった。
「そうだ、姫様も来年は二十歳だろう?」
国王陛下はエドなのに、エリザは姫様なのかと不思議に思う。
「ええ、エリザ姫は来年二十歳になります」
そしたら何を反対されても彼女を俺の妻にするつもりだ。エリザが嫌がらなければ・・・・・・の話だが。
「魔法使いにとっての二十歳は重要だからねぇ・・・・・・」
二十歳は結婚が出来る歳というほかに何かあっただろうか。
「リューク様・・・・・・そのお顔は・・・・・・」
流石、昔からよく知っているフユには俺の疑問が筒抜けだったようだ。
「そうか、リュークはもう騎士団に入ってたからやってないのかぁ」
「何を?」
「忠誠の誓いです」
「エリザ姫はもう昔にすませていますよ」
意識のないときにエリザの真名を知っている国王陛下が勝手にやったはずだった。
「いや、魔法使いは・・・・・・二度生まれるって聞いたことない?」
「ええ・・・・・・」
「リューク様は伯爵家の跡継ぎですから、秘密の名前か何かを父上から授かったのではありませんか?」
そうだと頷けない、当主しか知らないはずの事項を何故知っているのだろうかと思うが、それはやはり国王陛下の側に仕えているからだろう。
「そういう魔法使いの特殊事情が二十歳にあるんだよ。姫様は、二十歳になったら名前を授かって、もう一度忠誠を誓うか、別の道を選ぶはずだよ。でもこの調子だったら、必然的に忠誠だろうけどね」
「どういう・・・・・・?」
「石に魔力を溜める方法を教わった時に、何かいわれませんでしたか?」
古い記憶を思い出してみる。アインが教えてくれたのだ。バリンバリン割って、魔力の大半を無駄にした時に、アインはこめかみを掻きながら言ったのだ。
『こうやって魔力を溜めることが出来れば、役立つし、いいこともあるんだけどね』
『いいこと?』
『まぁ、でもこれ覚えるのにリュークは不器用だから一年くらいかかりそうだよね。王都で住めばいいし、その方がいいかもしれない』
確かそんな思わせぶりなことを言っていたような気がする。
領地はあっても、エリザは王都で住むだろうから、気にしなかったのだ。
「魔力石を作れればいいことがあると言っていた」
ロウは、「それ言ったのアインだろ?」と訊ねるから頷いた。
「俺が不器用で教えるのが面倒だから、もういいんじゃないかと言ってた」
「言いそうだよねぇ。大工仕事は器用なのにねぇ、リューク。リュークさぁ、魔力石を作れれば、姫様の魔力を持て余して発散させなくても大丈夫なんだよ。もし、リュークが姫様の受け皿として力を発揮できなくなっても魔石さえ作れるなら魔力の暴走を抑えられるから、領地に引っ込むことも、忠誠を誓わなくても大丈夫なはずなんだ。魔法使いが忠誠を誓うのは、自身の魔力の暴走を止めるためでもあるからね。リュークも気付いているだろう? 魔法使いは二度めの生の後、人によるけれど、とても魔力が増えるんだ。・・・・・・ああ、エドがここにリュークを送って来たわけがわかったよ――。この『レオンの眠り森』は、唯一魔力石が壊れても大丈夫な場所なんだよ。眠りの森は、どんな生物も魔物になりえない、竜の魔法がかかった場所だからね」
俺にもわかってしまった――。
二十歳までエリザを手放す気のない国王陛下は、俺が理性を失いエリザを抱いてしまった時に起こるかもしれない二度目の生を危惧していたのだ。
エリザが俺を求め、俺がエリザを求めたから、ここに送り込んだのだろう。
俺は、愛しくて堪らないエリザと離されてしまったことを自覚した。何故なら、俺はここで魔石を作る練習をしなくてはならないからだ。
エリザ、待っていてくれるだろうか。精密な魔力が込められた魔力石は鉱石からなる宝石よりも美しいという。不器用な俺が、君の魔力を溜めた魔力石で君を飾れるくらいになるまで――、どれくらいかかるのだろう。
少しだけ気が遠くなったのは、俺の気のせいに違いない――。
はい。色々諦めました・・・。恋愛ハッピー&ファンタジーになりました(汗)。恋愛だけだと魔力とかはとりあえず置いといていいのですけど、何だか楽しくて・・・。楽しんでもらえると嬉しいです♪




