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こんにちは。初めまして。『大団円ハッピーエンド企画』という『真麻一花』様の企画にとにかく魅かれまして、慌てて筆をとった次第でございます。
ああ、悪い夢を見ている――。夢だとわかっているのに、この先の出来事もわかり切っているのに、私はその人を止めることが出来ない。
目を醒ますことすらも――。
『逃げて!』
捕らえられていた子供達を助けるために、魔法使いが行ったのは、自分の命を媒介にした魔法だった。範囲をサーチされないために、沢山の子供たちはいろんな場所に飛ばされたはずだ。その中には、人のいない砂漠や狼の沢山いる山脈などもあっただろう。
それでもその人は、魔力を媒介とした国を護る防護壁を保持するために、魔力を搾取され続ける子供達の未来に光を――と、一縷の望みをかけたのだった。
『幸せになって――』
それが多分末期の声、私はその声を聞きながら、最後の一人として空間を渡った。
衝撃が、全身を包む。傷みに呻く間もないまま、気を失った。
私は、力が強かったから、防護壁と呼ばれる魔法の障壁を突き破ったのだと知ったのは、意識を取り戻した一週間後のことだった。
自国の魔法防護壁は、私たちを助けてくれた魔法使いによって破られていたが、飛ばされた先にも防護壁があったのだ。
「――エリザ姫?」
あ、と意識を戻した私に、その人は胡乱気な眼差しを向けてきた。
差し出されたハンカチを受け取って、居眠りをしながら、よだれをこぼしていたことに気付く。
「あ、ありがとう・・・・・・、リューク。紅茶のおかわりを頂けるかしら?」
ハンカチでよだれを拭き、そうお願いするとリュークは、「会議を進めてくれ――」と周りに命じた。
エリザというのは私のことだ。ウィンディール国の第一王女エリザ、それが私の役柄だ。
この国は、魔法使いの国王が君臨する国だ。
彼の名前はエドワード。本人は「愛の魔法使いだ」という。
愛――、あの人に愛なんて言葉は似合わない。呪われた男、なのに。
「で、今度の出撃は、リュークがでる?」
「リュークが行くの? 今度は魔物を狩るのだったかしら?」
眠っている間に会議が進んでいて、わからないままに尋ねると、話をしていたアインが頭を抱えた。
「姫、聞いていた振りくらいしましょうね」
アインは、呆れたように私を見つめる。
「姫は聞く必要などありません」
国王は、最早国を治めるということに飽きてしまった。彼は既に四百年ほど生きている。彼の趣味は、いわゆる慈善事業だろうか。
私の役柄は、彼の娘だったから、姫として国を導かねばならない。
私が? 私が姫として導く? 誰も彼も私にそんな役柄を押し付ける。けれどリュークは違う。彼は私にそんなことを言わない。
「姫は戦いの場にいっても無力なだけですから」
リュークは知っている。私が国王の娘ではないことも、役立たずなことも。だから私から距離をおこうとするのだ。隣に立つ彼は、私の紅茶をいれているような人間ではないはずだ。閣下と呼ばれる地位にあるのに、その大きな手で小さく見えるカップに私の望む紅茶を注ぐ。
私の魔力はとても大きい。魔法使いの王であるエドワードの強力な魔法の壁を打ち破ったのは、私の大きすぎる制御できない魔力だった。エドワードは、私に制御するための楔を打ち付けた。それがリュークだった。私は覚えていない。傷だらけで、国王の魔力の壁を打ち破るのに魔力の大半を使い果たし、眠りに落ちていた。
その間に何があったのか。私は知らない――。
楔は、私の魔力が溢れるとリュークに注がれるというものだ。リュークと私の間に壁はない。リュークは私の魔力を魔法使いのように自らの力として戦うことが出来る。騎士であるリュークは、強ければ強いほど、一番強い敵と交戦しなければならない。
血まみれ、騎士――。最高の騎士であり、最低の魔法使いとなった――。
この国は平和だ。毎日、人々は争いのことなど気にせず、自らの生活を豊かにすることを願って日々を送っている。
魔法使いですらそうだ。この国には魔法使いがそれなりの数いる。皆、必死に周りの人間が幸せに暮らすための伴侶を探すことに心血を注いでいるのだ。
「昨日はね、隣町のマイティとシンシアに愛の魔法を行ったんだよ。あれほどお似合いのカップルは初めてだよ」
そう言って、自分たちの仕事が完璧であったことを誇るのだ。
馬鹿か――。隣りの国は、毎年この国を狙って派兵しているというのに。東の森に魔物が発生して、何人もの騎士が怪我をしたというのに・・・・・・。
そして、私もどうやって進行を防ぐべきか意見交換している会議で居眠りをこいている。今日は暖かくて、なんだか気持ちがいい。
皆眠ってしまえばいいのに。そうすれば、争いに赴かなくてもいいし、怪我することもない。
リュークを身代わりにして、安穏と王宮で居眠りをする王女である自分を蔑まなくていいのに。
「姫、姫、・・・・・・エリザ姫?」
思考の海に漂っていたのをばれてしまったらしい。呆れたようなアインの声に、私はまたもやよだれを零してしまったのかと口元を拭う。
「姫として、それはどうかと思うのですがねぇ」
我が国のいいところは、身分の上下に関わらずそんな事を言えるところだろうか。
「西の森には第二騎士団、国境沿いの警護には第三騎士団で編成を組むように。西の森の指揮は私がとらせてもらう」
リュークが私に了解もとらずに、そう決めてしまった。いつものことだ、リュークは私の魔力の受け皿で、その魔力が過剰に堪りすぎないように放出しなければならいないのだ。危険な場所に行って戦うことが、私と、そしてリュークの命を守ることになる。
ちなみに国王の第一騎士団は、姿も形も見たことがない。もうだれ一人としていないのだという話と、国王のように長生きをしていて姿を隠しているという話がある。どちらが本当か、そんなことすらも私は知らない。
「リュークの指示通りに――」
私の言葉が一応最後の締めくくりとなる。どんな敵がいるのかも、何が起こっているのかもしらないままに、私は採決を下すのだ。
それが我が国のいつものこと――。
私の魔力は、基本的に私が使うことは出来ない。
この国には誓約があって、国王陛下に忠誠を誓うものは、愛のためにしか魔法が使えないのだ。そして、国王陛下の許しなく愛の魔法以外の魔法を使えば、この国の魔法の防御壁に弾かれてしまう。
私は、この国で保護された瞬間に国王陛下に忠誠を誓った――。・・・・・・覚えてないけど。
あの王は、鬼だ、悪魔だ・・・・・・。よくわかっていないリュークに酷いものを(自分のことだけど)押し付けたのだ。あの人は、きっとこんな力なんかなくても良かった。とても強い人だ・・・・・・。毎日訓練をして、リュークに適う人なんていない――。
廊下を歩いていると、リュークが剣を振る姿が見えた。黒い髪は、腰のあたりまであって彼が剣を振る度に汗をきらめかせている。瞳の青は、空の青で相手をしている男を余裕を持った瞳で睥睨している。
「エリザ様、気になるのでしたらあちらでご覧になったらいかがですか?」
柱の陰に隠れて見ているのをどうにか思ったのか、後ろで護衛していたブライアンが提案してくれた。
「ええ、でも、アインが待っているから・・・・・・行かないと」
アインは、私の婚約者だ――。婚約者が待っているのだから行かなければならない・・・・・・。なのに何故こんなに足取りが重いのだろう。
アインは、趣味が悪い。性格も悪い。だから国王のお気に入りで、私の婚約者なのだ。
「今日の会議は、散々君の可愛いウトウトと眠る姿を見られて、僕は幸せだよ。今日もリュークの訓練でも見ていたのかい? 十分も遅刻だ」
アインは、私が部屋に入って謝ろうとした隙に畳みかけてくる。
もういい大人なのだから、そんなことは止めて欲しい。
「ご、ごめ」
「そんな目で僕を見ない――。ああ、もう、本当に君は可愛いな」
アインの趣味は悪い。私に告げた言葉の全てが嫌味でないというのだから素晴らしい性格だ。
「僕は第三騎士団を取りまとめて、二週間後には城を出る。リューク達は一週間後だから、しばらく一人になるけれど、大丈夫?」
一人というのは、変な話だ。護衛は沢山いるし、アインやリュークがいないことなどいつものことなのに。
私の気持ちを察したのだろう。アインは私の髪をぐちゃぐちゃにする勢いで撫でた後で、「この時期に一人は心配だ」と言った。
そしてやっとその意味に気付いた。
この時期、春の麗らかな花盛りのこの時期に、私はこの国にたどり着いたのだ。
それで悪夢を見たのだと、やっと気付いた。
苦笑するアインは、私が気付いてなかったことに呆れているようだった。
「ね、怖くなったら・・・・・・呼ぶといい。名前は魔法だからね、呼ばれたらきっと気付くよ」
誰が、とか誰を――なんて、意地悪なアインは言わない。
私は、曖昧に微笑みながら、アインと一緒にお茶を飲むのだ。アインは、リュークの話や国王の話を沢山してくれる。
けれど、自分の話はしない。私の話も聞いてくれるのに、どうしてなんだろうと思いながら、私は目の前のお菓子を食べながら、何故かとは聞けないでいる。
「ありがち上等!予定調和は望むところ!ご都合主義ってすばらしい!」がコンセプトで! という真麻一花様のお言葉通りに、進めてまいります。いやぁ、締め切りがあるっていいね。何度くじけそうになったことか。でもこのコンセプトに合わせて作っているから、ね(笑)。
思ったより心配なのが文字数です。超えませんように・・・。ドキドキ。