第14話 光のサブユニット
第14話 光のサブユニット
1Å=0.1nm=100pm=100,000fm=10の-12mである。そして、核子の大きさは1fmである。
超同素体部が所有する原子核内の核子を自由に座標配置できる装置は、パルスがシルバに与えた装置2台のうちの1台であった。このときの人類が持つ最大の分解能を持つ電子顕微鏡は8pmが限界であったため、核子を写すことはできない。核子を捉える方法として脈流顕微鏡を使うことは可能であったが、捉え核子のデータは極の配置パターンから構成されるサブユニットだけである。そしてサブユニットは自然界(物質界)の座標系の範疇外にあり、スケールもわかっていない。そのサブニット(正確にはサブニット集合体)と核子の照合を行ったのはシルバであるが、その照合手段はパルスから得たものである。つまり、人類はサブニットや脈流顕微鏡をまだよく理解していない。そのため電子顕微鏡と脈流顕微鏡の間には、相当の分解能と性能の差が存在することになる。
パルスからの知識によると、脈流顕微鏡の原理は光学系の顕微鏡に似ていて、1つの座標配置(超同素体)が凸レンズの役割を果たし、その超同素体に可視光線を照射することにより、サブユニットを認識できるというものである。一人の光学出身の技術者のアイディアは、照射する光線の放射エネルギーを上げてみてはどうかというものであった。光学顕微鏡では、放射エネルギーを上げると、明るさが増し分解能も上がる。つまり、脈流顕微鏡にも同じ効果が現れるのではないかと言っているのである。
利助もなるほどと思い実験が開始された。しかし、いくら放射エネルギーを上げても脈流顕微鏡に映る映像は変化しなかった。ついに光の放射エネルギーの量はγ線に届くまでなった。通常の原子核に一定量のγ線を照射すると光崩壊を起こし、核分裂をしてしまう。これの意味するところは、凸レンズの役割を果たしている核子の座標配置が、壊される可能性が高いということである。それだけならば、実験を中止すれば済むが、破損によって装置そのものに影響を与えるかもしれない。つまり、2台しか所有していない装置の1台を失う可能性があった。
光(γ線)の放射エネルギーの量は10TeV(10の13乗電子ボルト)を超えた。
「映像がぶれています」
「装置に異常はあるか?」
「いいえ」
「凸レンズに異常はあるか?」
「わかりませんが、破損はしていないようです」
「よし、続けてエネルギー量を上げろ」
「何も見えなくなりました。いえ、何かが映っています」
この時の光(γ線)の放射エネルギーの量は100TeV(10の14乗電子ボルト)を超えていた。
「よし、もっと上げろ」
「うわ~」
「あっ」
実験室は眩い光で満たされていた。つまり、明るすぎて何も見えなくなったのである。この光は室外にも放出されて、この様子をみた人々は、超同素体部が事故を起こしたと思ったそうである。
「光のサブユニットに触れたみたいね。でも、あなたたちは運がいいわ。光のサブユニットが放射エネルギーを増幅させていたら皆灰になっていたわ。今回は放射エネルギーを分散光に換えたようね。次は、もっと弱いエネルギーで光速を超えた放射にしてみなさい。光速を超えた時点で物質界とは別の世界を覗くことができるわ」
このようにチロが、アドバイスをするのは、こんな実験を度々起こされては人類の滅亡に繋がると思っているからかもしれない。