第6話 族からの課題
第6話 族からの課題
シルバとアサリが元素の族と元素番号から気付いたことがいくつかあった。
1つは族の番号が奇数であれあれば属する元素の番号も奇数になり偶数ならば偶数となることであった。例外として第3族(希土類)には元素番号が奇数のものと偶数のもの両方が属している。これは、ランタノイド(元素番号57~71)とアクチノイド(元素番号89~103)と呼ばれる元素ブロックを含むためである。ここで課題がいくつかできた。
①偶数族は原子核の中に陽子対のような構造を持つのか?
②同様に奇数族は、原子核の中に陽子対を持つとすれば孤立陽子を1つ持つのか?
③ランタノイドの電子軌道は核子の構成と関係あるのか?
尚、アクチノイドは元素ブロックとしての調査は行わないこととした。理由は、自然界に存在する最大の元素番号は94番のプルトニウムであり、他の元素は人工的に作られたものであるから実験に要する時間が大幅に増加することと元素としての寿命が短いものが多いためである。また、アクチノイドはランタノイドの性質を受け継ぐと考えている。
④ 人工的に作られた95番以降の元素番号を族から外して見ると、第5族と第11族に属する元素番号は全て素数である。これに何か意味はあるのか?
⑤族によって常温などでの相は同一であり、融点や沸点も狭い範囲で似通っているが、これにも何か意味はあるのか?
⑥水素は特別な元素であるが、その特別性は核子の構成と関係あるのか?
と、6つの課題が提起された。
シルバ:「①と②は脈流顕微鏡の改良を待ちたいがどうだろう?」
アサリ:「そうですね」
シルバ:「④の素数の専門家を知っているかい?」
アサリ:「いいえ」
シルバ:「それでは④も保留だな」
アサリ:「はい」
シルバ:「⑥はどうだろう?そもそも水素は中性子の特殊型なのだけど(中性子は素核子と陽電子、電子で構成されている。単体中性子から電子が飛び出すとき、クーロン力によって電子を捕まえると水素になると考えている)……」
アサリ:「化学反応において、水素は様々な形態をとります。但し、軽水素(陽子1個と電子1個)の場合だけですが。重水素や三重水素は核力が必要になってきますから、単純に化学反応だけでその性質を表現することは出来ません。化学の分野では陽イオン化した水素をヒドロン(プロトン)、陰イオン化した水素をヒドリドと呼びます。つまり、誰とでも化学反応(共有結合)を起こせるのです。しかも、孤立電子対を持つ分子には水素結合で結びつきます。水素結合は引力によるものですが、このクーロン力を無視したような引力がどこからくるのかわかりません」
シルバ:「なるほど水素結合は面白いな。水素か中性子を使って核子の結合実験をしてみよう。しかし、これも脈流顕微鏡の改良が必要だな」
結局、調査課題は③と⑤に絞られた。尚、脈流顕微鏡の改良は利助の極座標配置調査部で行われている。