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脈流  作者: 智路
6 黎明の技術爆発
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第3話 原子核の観察

第3話 原子核の観察

 原子核・元素調査部が設置されたとき、不思議に思ったものも多かった。これからは脈が開発の主流になると思われるのに一世代前の物質技術を開発するのはよく意味がわからなかったのである。桃九から物質と脈の接点となる原子核や素粒子の研究は重要だと言われても納得感を持てない者も多かった。しかし、チロの思惑が桃九に伝えられていたのである。チロは原子核や素粒子の研究はついででよかったのである。

 元素の性質は元素番号で決まる。元素番号は原子核中の陽子の数で決まる。そして、元素番号が1つ違うだけで、元素の性質の差が大きく異なる。この理由を陽子1個や電子1個に求めても答えは出ない。チロは、そこに創発現象が起こっているのではないかと考えているのである。すなわち、原子核・元素調査部の設置の本当の理由は創発現象の研究にあったのである。

 原子核は陽子と中性子で構成される。そして、

・陽子=素核子+e+

・中性子=素核子+e++e-

となる(e+は陽電子、e-は電子)。尚、核子とは陽子か中性子のことであり、素核子は核子の本体である。通常、原子核の中心は陽子である。但し、陽子と中性子が核力で結合されると電子交換を周期的に行うので、原子核内では陽子と中性子の区別は大きな意味を持たない。

 シルバは原子核モデルの仮説をたてていた。原子核の中心は、1個の核子が占める。1個の核子は最大4個の核子と核力で結合することができる。すると、多数の核子で構成される元素の核子は二重、三重、四重に重なり合うことになる。つまり一重目には最大4個の核子、二重目には最大4×4=16個の核子、三重目には最大16×4=64個の核子、四重目には最大64×4=256個の核子が存在できることになる。この多重仮説はシルバのものであり、確かめる術を持っていなかったが、脈流顕微鏡であれば観察可能かもしれなかった。

 原子核・元素調査部に脈流顕微鏡が導入されていよいよ観察となった。観察は順調に行われていた。最初の手順はリーの実験室で観察した結果の再確認であった。電子と陽電子は異なる1つのサブユニットで構成されていた。これは電子と陽電子は限界素粒子であることを意味していた。物質的に電子と陽電子を分解することは不可能であることがわかった。サブユニットは分解するどころか、その構造も明らかではない。尚、サブユニットが単体で1つの種類の物質を構成しているか複数のサブユニットで1つの種類の物質を構成しているかは顕微鏡の観察により区別できた。顕微鏡に映るのは、小さな多角形で内部の模様が僅かに見えた。サブユニットの識別はこの多角形の頂点数と僅かな模様で決定されていた。複数のサブユニットで1つの種類の物質を構成している場合、サブユニットは接触か僅かに離れて見えたのである(素核子に付属している電子と陽電子がそうであった)。

 陽子と中性子の電子交換も観察できた。陽子側に一時的に1つのサブユニットが出現した。推測になるが、このサブユニットは一時的に+の電荷を持った物質となり、中性子側の電子に交換移動のための加速度を与えると考えられた。電子が加速するとサブユニットは見えなくなった。消滅したのではなく観測できないだけだと考えられる。このサブユニットの効果を弱い相互作用と呼ぶことにした。そして、このサブユニットをウィークボソンと名付けることにした。ところが、素核子は識別できなかった。確かに陽子には陽電子サブユニットが存在し、中性子には陽電子サブユニットと電子サブユニットが存在するのだが、素核子は識別できなかったのである。ましてや多重仮説の立証など不可能である。

 識別できない理由が確定できなかった。多数のサブユニットで構成されているからなのか、素核子が物質として分解可能で電子交換のような作用を持っているためなのか可能性を挙げればきりがなかった。

「結局、役に立たないじゃないか」

シルバの苛立ちも分かるような気もするが、脈流顕微鏡は役に立つツールであった。


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