第2話 脈流顕微鏡
第2話 脈流顕微鏡
人類は物質によって脈の極座標配置を決定する手法を3つ知っている。1つは核反応ウイルスから得た座標配置であり、1つは核処理ウイルスから得た座標配置である。これらはウイルスの持つDNA中の酵素と座標列コドンにより決定される。3つ目は珍しくチロから教えられた核子(陽子、中性子)による座標配置である。これは脈流通信機Ι型として光速の数十億倍の速さの通信速度を持つことができている。
元号黎明に入ってからの最初の大きな技術開発は脈流顕微鏡であった。これはいくつかの部署の協力によって実現した。きっかけはリーが脈流レーダーの開発を行っているときだった。現在知っている座標配置による通信波は指向性である。今宇宙艦に配備されているレーダーは、この通信波を応用している。従って雑なレーダーなのである。これをある程度拡散性を持った通信波にできないかと、座標配置をいじっている時だった。物質の無い場所で実験中のレーダーが反応した。初めは実験の失敗、つまり誤作動かと思ったのだが、原因をいくら探しても見つからなかった。これをチロに見つかった。
「あっははは、それ脈の破片よ。物質になりそこねたのね。物質は、空間線の集合体のサブユニットから構成されているわ。もう少し座標配置を工夫すれば物質のサブユニットを識別できるわ」
幾日かの工夫の結果、サブユニットを捉えることはできたが、識別はできなかった。そこで、利助に協力を求めたのである。極座標配置調査部では、新しい有効な座標配置を日々探している。3年経っても1つも見つけることはできないが、座標配置の実験のスピードは格段に進歩していた。つまり1回の座標配置の実験に要する時間が短いのである。やがて、いくつかのサブユニットを識別できるようになった。ところが、リーと利助では、そもそも物質の素がよくわからない。つまり、原子核の中身のことがよくわからないのである。シルバが参加し、原子核の中身と識別したサブユニットの照合が行われた。未だ、未解明の部分もあるが、一番喜んでいるのはシルバであった。
「これで仮説の裏づけがとれる」
そして、一番悔しい思いをしているのがリーであった。
「こんなミクロの世界がレーダーに映っても邪魔なだけだ」
しかし、リーは今まで使用していたレーダーのスケールがまるで当てにならないことを勉強した。つまり、レーダーは正常に機能していなくケンタウルス座α星で3個の惑星を発見したことは幸運以外のなにものでもないことを知った。
利助はこれ以来、極座標配置の調査を止めた。調査部で行っていることは実験の精度を上げることと実験の時間を短縮することだけであった。利助は各部署をぶらつくことになる。つまり、新規の極座標配置は他の部署に鍵が埋まっていると考えたのである。この情報収集にうってつけなのが、勝智朗である。精神体であるから瞬時に移動でき、他の部署の邪魔にならないのが一番よかったようである。
こうして、脈流顕微鏡が製造され、原子核・元素調査部で重宝されるようになる。同時に脈流顕微鏡の映像の全てが教育機関などに公開された。つまり、暇なときにでも新規の極座標配置を探してみなさいということらしい。これが生徒たちの間でブームとなり後にいくつかの新規の極座標配置が発見されることになる。