第14話 精神体の共鳴
第14話 精神体の共鳴
チロは親しみを込めてサンガを歓待していた。
「こんな遠くまで大変だったでしょう」
「いいえ、楽しい旅路でした。こうしてチロさんにも会えましたし。あの帝国で過ごすことに嫌気がさしていたのです」
「ところで、セイトはどうしています?」
「さあ?わたしが旅に出る随分前から話をしたこともありませんし、どうしているのでしょうか。おそらくセイトさんも嫌気がさして隠れているのでは?」
チロはセイトのことを気にしていた。というより疑惑を持っていた。
(以前のセイトなら嫌気がさしても隠れたりしないわ。的確な対処をするはず。それにタンタ176号のこともあるし……)
そして、チロはサンガにも懸念を持っていた。
(セイトとサンガの繋がりがよくわからないわ。サンガからもう少し多くのことを聞いてみようかしら。それにサンガは本当に甥孫なのかしら。サンガの記憶ももう少し探ってみようかしら)
「サンガは肉体を持つ前の記憶を全然持っていないの?」
「はい。まるでありません。チロさんのこともセイトさんから聞いて知ったのです」
(おかしいわ。そこまで記憶を失うものかしら。第5世代なのに。それにセイトはわたしが天の川銀河に存在することを知っているのかしら?)
「ねぇ、セイトはわたしが何処にいるか知っていた?」
「知らないようでしたよ。ただ、自分には兄弟が一人いるけど行方知れずで、従姉弟も二人いるけど、弟の方は精神分割してわたしを産んで、姉の方は行方しれずと言っていました。姉というのはチロさんですね」
「なるほど。じゃあ。あなたの兄弟はどこ?それに従姉弟二人か叔父か叔母が一人いると思うけど」
「はい。兄弟の名前はゴクウといいます。今、アンドロメダ銀河へ勉強に行っているそうです。従姉弟の一人は、大マゼラン雲へ行っているそうです。一人は残念ながら天の川銀河の中央部にある超大質量のブラックホールに飲み込まれて行方不明だそうです」
「それ全部セイトから教えられたのね?」
「はい」
(どこまでが本当で、どこまでが嘘かはっきりしないわ。全部本当かもしれないし、全部嘘かもしれない)
桃の精たちは神の世界にいるころ、1つの桃という集合体の一部であった。精神分割したとはいえ、その一部の名残を持っているはずである。チロもサンガも同じ桃の精(第2世代)から精神分割したとするならば、精神同士を近づければ共鳴が起こるはずである。サンガの素性を知るためには精神接触が最も確実であるが、これはチロとサンガに大きな影響を与える可能性がある。そこで、チロは桃九から抜け出し、サンガにできるだけ近づいて見た。すると美しい旋律がチロに響き渡った。おそらくサンガにも響き渡っているものと思われる。つまり共鳴を起こしたということで、サンガが甥孫か否かはともかく、近しい精神体であることはわかったのである。