第7話 勝智朗の朗報
第7話 勝智朗の朗報
チロとの出会いは桃九に大きな衝撃を与えたのだが、桃九は少し困惑していた。
(真なのか偽なのか。つまりチロを信じるか否かだけど、確かめようもないし。何が問題か考えてみることにするか。チロが頭の中に同居したのは、勝智朗兄のこともあるから特に問題じゃないし、テロメアのことも調べたからいいとして、やはり生命の元の存在が問題になるのか)
しかし、確かめる術を桃九は持っていなかった。待てよと思ったのは、チロの出現で自分の目的への道筋が幾分脱線したことに気づいたからであった。どちらかと言わなくとも先走り過ぎているのであった。確かに自分は不老の可能性を求めていたが、それは人工のたんぱく質(特に酵素)を合成することで実現させようとしていたのであった。しかし、チロの話が本当ならばそれだけでは不老は難しいことになる。これから何を為すべきかここが思案の岐路となりそうであった。
「桃九、見つけたよ」
「勝兄、何処に行っていたの?随分久し振りだね」
「おや、誰かいるね」
「初めまして。チロと申します」
「チロはね……」
「わたしの紹介は後回しにして勝智朗さんの話を聞きましょう」
「では、早速。京都の高野山にいるのだけど。ちょっと変わっているというか不遇というか……」
「変わっているのはここの皆だよ。で、どんな人?」
「一言でいうと生物学の異端児かな?元は京都大学で教鞭をとっていたのだけど、発表する論文の全てがまるで学会の主流派を否定するような、けなすような内容でとても科学とは呼べない代物でね。論理7分に感性3分の論文でついには学会を締め出された人なのだよ」
「へ~面白いね。でもどうして高野山にいるの?」
「命の源を精神修養で捜しているというのが、本人の意地というか頑なな決意みたいだよ」
「あ、歯車が噛み合った。チロはこのこと知っていたの?」
「いいえ、全く知りませんでした。何かが形成される予兆なのでしょう。予兆ではなく、経過かもしれませんね。脈に入ったのかもしれません」
「脈?」
「そのことは、おいおい説明します。流れはわれらのものかもしれないということですよ」
「わかった。で、勝兄はどうやってその人とコンタクトをとったの?」
「その人も別の精神の受け皿を持っていたのだ。そこで“こんにちは”といったら半分は驚いていたけど、半分は喜んでいたね。研究が大幅に進展するって」
「その人に会える?」
「もちろん、そのために戻ってきたのだから。早速高野山に行く準備をしよう」