第9話 プロキシマ・ケンタウリへ
第9話 プロキシマ・ケンタウリへ
プロキシマ・ケンタウリへの出港準備が着々と進められていた。エンジンは対消滅炉を2基搭載し、1基がメインエンジンである。今後の基準のためにこのメインエンジンの最大出力を1emax、巡航出力を1ecruとしておきたい。1emaxは、1ecruの約1.5倍の出力である。巡航出力でプロキシマ・ケンタウリまで航行(巡航速度)したとき、片道約1年未満が見込まれている。尚、航続距離は11光年となっている。
サブエンジンはメインエンジンと同じ仕様であるが、常時はエンジンとしては使われず、重力制御ジャイロや各種装置の動力として使われていた。エンジンとしても使用可能であるが、装置の使用頻度などでどのていどの出力が見込まれるかは状況次第となる。
機体の形は円盤型から葉巻型となった。これは対消滅炉の導入でエンジン出力が飛躍的にアップしたためと、同じ理由で重力制御ジャイロの安定力が増したためである。全長は1120m、最大胴体直径は280mとなっていた。
主な装備は重力制御ジャイロを除いて、
・エネルギー消滅砲-使うときがあれば、危険が迫ったときと考えられるのでできれば使いたくない。
・対消滅砲-主として宇宙の瓦礫駆除などに用いる予定である。
・脈流通信機Ι型-既にⅡ型の開発に着手中である。未解明の部分が多いため、逆に可能性を秘めた通信機となる。Ι型は光速の数十億倍の速さである。
・偵察機3機
・観測機2機
・地上観測車12台
であった。
チロがいうにはプロキシマ・ケンタウリを含む近傍の恒星系に有機物は存在しないようである。今回の最大の目的は恒星間航行を成功させることで、プロキシマ・ケンタウリの惑星に着陸して地球に帰ってくれば成功ということになる。ついでに木星の10倍ほどの大きさの惑星の環境の調査をしてこようというわけである。
この機体には『グリーン』という名がつけられたが、この名は人類が自分たちを戒めるためにつけたものであった。こうして「青くさい」恒星間航行機はハードの面では準備万端となった。
艦長に立候補したのはラーであった。誰が見ても適任と思われ、チロも認めたが、チロは不安を1つ持っていた。確かにラーは長年生きてきて経験豊富で、統率力も知識も含め総合能力では、地球上で並ぶものはいないだろうと思われる。しかし、咄嗟の判断力、つまり判断の瞬発力が劣っているようにみえるのである。ただ行って帰るだけの旅行気分の航行であるが、未知の世界への旅路である。なにがあってもおかしくはないのだ。
チロは、一人の人間を補佐官に任命した。ケニア出身のアバという人物だった。この人の本職は数学者であるが、数学者としての潜在能力はそれほど高くないようである。若い頃に野生のライオンと格闘したことがあるという逸話の持ち主でチロの評価はむしろここにあった。根が数学者か野生児かわからないが、必要な情報を瞬時に感じ集めることができる。その情報を元に判断の瞬発力が類をみないほど早かった。仮に情報が欠けていたとしてもそこを瞬時に繕い、同じように判断をくだす。つまり、理性と感性が融合したような思考の持ち主であった。