第7話 波
第7話 波
脈流の詳しいことはチロにもわかっていない。物質によって脈流を制御できることを知ったのは、U-1型ウイルスのおかげといってよかった。この世界に投じられてから多くの知識を蓄えてきたつもりだったが、その知識の質と量がどれほどのものかチロは心許なくなっていた。脈については多くの仮説を持ち、それを試すことができれば、知識はもっと増加したのであろうが、脈そのものを操作するのは神の子への遠慮、即ち反逆に似たものに感じていて躊躇いがあったのである。おそらくその躊躇いは、これからも持ち続けていくのであろう。
アインに伝えた通信手段も半年ほど前に試したばかりであり、チロは脈への関与をどうしようかと悩んでいた。脈についての関与は控え、人類に全てを任せるべきなのだろうか。そう思うチロであった。
アインは脈と脈流を自分の持つ知識の波の性質におきかえて思考を進めてみることにした。ここでは正弦波についての構成要素をアイン(筆者)が知る限りのことを記したいと思う。周波数・振幅・速度・波形(ここでは正弦波)が波の基本構成要素となる。波は原点を始点として波形を描いて原点に戻ったとき1回の波が発生したと数える。一回の波の発生に要した時間を周期T(s)としたとき、その逆数が周波数(f)となる。つまり、周波数は1秒間に発生する波の個数となり、単位Hzであらわす。振幅は波の大きさであり、波形中の最大値を表す。最大値は絶対値であり、正負は関係ないとする。速度は、1回の波が進む速度であり、これをv(m/s)とするとT(s)×v(m/s)が波長λ(m)となる。ここでは波形を正弦波としているから波形の説明は省きたい。
光は物質の制限(どのような制限かまだよくわからない)を受けるため、一秒間に最大30万km進むことになり、それ以上の速度を出せない。脈の制限はよくわかっていないが、全ての空間線の重みを1とし、物質の距離にとらわれないとすれば、辿る空間線の数を距離とみなすことができる。従って、光速の数十億倍の速さを持ちうることが出来る(はずである)。
この物語の課題として2つの問題を提起しておきたい。1つは脈流の正体はその場に関与する全ての力あるいはエネルギーの合算の結果である。現代科学における相互作用という表記の合算と考えてもいいと思う。但し、合算の演算子は不明である。ついでというか筆者の主張というべきか、近い未来に関数による自然現象の表記は廃れ、組み合わせの表記が発明されて移り変わっていくものと思っている。そのとき全ての関数は組み合わせの属性となる。
1つは部分の集合体による創発現象の解明である。また、細胞分裂にみられるような創発現象も存在する。前者を集合的創発現象と呼び、後者を分割的創発現象と呼びたい。どこかの章の何話かで同じことを述べているが筆者はくどい性格のため、これに限らず同じ事を何度も記していると思うので、そこは容赦願いたい。
2つの問題へのアプローチは座標配置で行いたいと思っている。ここでも同じことを繰り返すが凸図形は単純で凹図形は複雑さを増していく可能性を持っていることは明らかなのである。