第4話 電子-陽電子の配置転換
第4話 電子-陽電子の配置転換
電子-陽電子の配置転換酵素の反応過程を観察しながら、アインは同時に思考を働かせていた。確かにある過程までくると、物質像の一部が陽炎のようにぼやけてくるのであった。何度も観察している中にアインは電子と陽電子だけに焦点を合わせるようになっていた。それまでは酵素の働きばかりに目がいって全体像を掴めなかったのである。この反応において重要なのは電子と陽電子の配置転換が起こり、陽電子が原子核の外に放り出されて、素核子と電子が結合して反陽子が生成されるという反応結果である。
陽子は素核子(電荷0)と陽電子(電荷+1)が結合したもので、中性子は素核子(電荷0)と陽電子(電荷+1)、電子(電荷-1)が結合したものである。この陽子と中性子が核力で結合されるとき、電子の交換を周期的に行い陽子は中性子に、中性は陽子に変換されている。これを三角関数(仮にsinθ)に当てはめて見ると、周期が0かπのとき電子は中性子と陽子の中間に位置し、周期がπ/2か3π/4のとき、中性子と陽子のどちらかに位置することになる。正確にいうとπ/2か3π/4のとき電子を結合させているほうが中性子で、もう一方が陽子となる。しかし、これは概念であり、実際には電子の振る舞いはこれとは異なる。π/2か3π/4のときの結果は同じであるが、周期の途中では電子は相をエネルギーに変えている。
酵素が電子を捕獲するのは、相を物質に変えた瞬間であった。と、同時に陽子に結合している反電子も捕獲しているようである。電子と陽電子はクーロン力(引力)によって引き付けあうが、酵素が働かない通常の電子交換では素核子の2極に分離されクーロン力が働くことはない(中性子の通常状態)。酵素が働くと電子と陽電子は極限まで接近するようである。そして、ここが捕らえきれない箇所なのだが、電子と陽電子はすり抜けるように自分の方向を変えずに進んでいく。問題はこの箇所なのだとアインは思った。
現代科学の量子力学にトンネル効果という現象が存在する。これは微小な世界において例えば電子が障壁をすり抜ける現象のことをいう。しかし、筆者はこの量子力学を全く理解しておらず、上述の現象はトンネル効果ではないとしたい。前話で「物質は空間線の集合体であり、極(+-)の座標配置により生成物の性質が決定されていく」と述べた。裏を返せば極(+-)の座標配置パターンが電子としての要件を満たさなくなれば、電子(陽電子)は物質としての性質を失う。そして、物質としての性質を失ったもの同士は衝突しないが交差すれば互いに干渉しあうことになる。衝突には多大なエネルギーを必要とし、物質でなくとも異なるものが同一座標に存在することはできないからである。
まだ電子と陽電子であるとき、クーロン力によって極限まで接近した電子と陽電子は運動エネルギーを与えられたことになる(尚、物質のままクーロン力が働き続けたならば電子と陽電子がどのような振る舞いをするかは別な課題として残しておきたい)。クーロン力は距離の2乗に反比例するからこの運動エネルギーはかなり高いと思われる(衝突させるほどではない)。極限接近状態の電子と陽電子は、次の式で表すことが出来る。
・電子(陽電子)のエネルギー=電子(陽電子)の質量エネルギー(物質相)+運動エネルギー(エネルギー相)
この状態のとき、電子(陽電子)が非物質化すれば、
・非物質=非物質(非物質相)+運動エネルギー(エネルギー相)
つまり運動エネルギーを持った非物質になるのではないかとアインは考えた。非物質ならば、干渉しあいながらでも、すり抜けることができて、すりぬけるための時間は運動エネルギーによって短時間で済むはずである。
しかし、アインはこれを確かめる術をもっていなかった。