第1話 人類代表
第1話 人類代表
チロが呼び集めたのは、桃九、利助、円光、アイン、サエの5人であった。精太郎は昨年、急性の心臓疾患で亡くなっていた。これに精神体の勝智朗が加わり6人がチロの話を聞くことになった。
「皆さんには人類の代表として多くのことを学んでいって欲しいと思っています。人類の技術的あるいは精神的支柱となるよう励んでください。学ぶといってもわたしが教えることはそう多くはありません。自ら学びの道を切り開いて、できればわたしの知らないことを得ていって欲しいのです」
チロはこの5人を不老化したかった。チロが施術すれば簡単にできるが、チロは複雑な構造や機構を持った人体にできれば施術したくないと思っていた。チロは創発現象を未だ解明していないので、複雑なものに意図を持って施術したとき、思わぬ弊害がでる可能性のあることを知っていた。つまり、人類に23番目のアミノ酸は用いないことに決めたのであった。ただ、強力な自己修復機能を持つ25番目のアミノ酸を施術することは仕方がないと思っていた。25番目のアミノ酸を含むたんぱく質や酵素群は人を限りなく不死に近づける。この25番目のアミノ酸を施術するために、5人を呼び寄せたのがチロの本当の目的であった。しかし、その施術には、不老化という条件が必要である。不老化していなければ、自己修復機能の効力は極端に落ちるため施術は行わないとも決めていた。
桃九は88%、利助は72%、円光は84%、アインは42%、サエは33%であった。この数値は不老化を100%としたときの達成率を表す。通常の人類は3~5%であるのに対して皆遥かに高い数値をしめしているが、まだ100%ではなかった。この不老化率を高めるためには受感部と幹卵器官の成長が必要となる。受感部は精神修行において幹卵器官は強い学びへの探究心が有効である。チロは一人々々に課題を与えていった。
まず利助が呼ばれた。あなたにはこの小部屋に入って貰います。その小部屋には見たこともない材質の精密機械と思われる器具がおいてあった。
「この中にU-1型ウイルスを閉じ込めてあります。そして、これが観察器です。あなたにはU-1型ウイルスの構造や機構を調べて貰います。但し、一日に4時間だけは皆と一緒に精神修養に励んでください」
円光には、
「あなたの受感部はほとんど100%に近く発達しています。弱いのは幹卵器官になります。おそらくあなたの探究心は仏教を思う気持ちなのでしょう。しかし、これからはこの器械の前で仏教とこの器械から得られる情報を融合していってください。精神修養のときは皆の手助けをお願いします」
アインには、
「この器械には脈の基本が記されています。あなたの目的は脈を観測できる装置を作成することです」
サエには、
「貴女に精神体が見える理由がわたしにもわかりません。貴女はわたしか勝智朗さんと行動を共にしてわたしたちと人類の通訳ができるようになってください。おそらく見えるのですから会話もできるはずだと思っています」
これらの会話は桃九を通訳として行われている。精神体であるチロと勝智朗は受感部の分枝を複数持つ桃九か、分枝を1つ持つ利助の分枝に入り込まないと人と会話が出来ない。通常、人は受感部によって己の精神体と肉体を繋いでいるので、受感部はその人の精神体で埋め尽くされているのである。桃九の受感部も桃九の精神体が占有している。よって、分枝を持たない者にチロたちは入り込めないのである。サエにはこの方法ではなく、チロと会話できるようになって欲しいと思っているのであった。
最後に桃九には、
「利助とアインの助手を務めてください。あなたの場合、円光さんと逆で幹卵器官は100%に達しています。できるだけ円光さんと行動を共にするようにしてください」