第16話 化学反応
第16話 化学反応
酸化カルシウム(CaO)に水(H2O)を加えると、高熱を発して水酸化カルシウムになる。この化学反応式は以下の通りである。
CaO+H2O → Ca(OH)2
酸化カルシウムの通称は、生石灰(せいせっかい、きせっかい)であり、水酸化カルシウムの通称は消石灰である。身近な生石灰は、食品などの乾燥剤に見られるが、誤ってゴミ箱にこの乾燥剤と水分を混入させると高熱を発し火事の原因となることがある。身近な消石灰は、学校のグラウンドなどに白線を引くとき、ラインパウダーとして用いられている。
上記の化学反応式は、同量(分子量に換算して)の生石灰と水の反応式である。しかし、これは全ての生石灰と水の反応が終わった後の結果である。つまり上記の化学反応式の右辺は結果だけを示していることになる。
さて、筆者はある植物を育てるとき、冬の間に土壌殺菌をしようと思った。植物に限らず多くの生物は強アルカリ性物質に弱いことが知られているため、殺菌剤として消石灰を用いることにした。当時、このことに関する筆者の知識は乏しかったため、消石灰を作るために生石灰を買い求めて水と反応させて作ろうと思った。そうすれば消石灰水溶液の濃度を自由に調節できると思ったのである。幸いにもホームセンターに生石灰は売っておらず、仕方なく消石灰を買い求めてきたのであった。その夜、知人と話す機会があり「運がよかった」とか「愚かな」とか言われた記憶が残っている。
筆者が生石灰と水から消石灰を作ろうとしたならば、失明する危険性が極めて高かったようである。というのは、通常生石灰や肥料などの粉末や顆粒状の販売品は20kg入り袋で売られているため、水タンクに溜めた水の中に20kgの生石灰を一度に投入すると爆発する可能性が高かったからである。化学反応には反応過程があり、全ての生石灰と水が0秒で反応するわけではなかったのである。一部の生石灰と水が徐々に反応し右辺の結果となるのである。この反応では高熱を伴うためそのエネルギーが爆発現象となり失明したかもしれなかったのである。
消石灰の水溶液は強いアルカリ性を持ち、多くの生物はアルカリ性水溶液に弱いとされている(筆者が勝手に解釈すると、生体の化学反応には酸化作用が多くこれを阻害(中和)するためと考えられる)。実際に消石灰の水溶液は殺菌剤としても用いられる。
ここまでは筆者の経験で桃九は知らないはずであるが、桃九は気が付いたようである。桃九は、無機物の殺菌剤がU-1型ウイルスに対抗する手段としては最も有効であるはずだと考えた。免疫機構は働かないはずである。しかも進化したウイルスは水素だけを食すのであるから、Ca(OH)2(消石灰)とH2O(水)のH(水素)が取り込まれない限り安全なはずである。免疫機構は働かないから進化したウイルスの水素取り込みの反応過程だけが問題となる。この水素だけを取り出す反応過程が桃九にはわからなかった。しかし、その反応過程は化学反応しか考えられない。それならば、CaO(生石灰)とO2(酸素)だけをばら撒けば、ウイルスの体内組成の多くを占めるH(水素)と反応して消石灰が生成されるのではないかと考えた。しかし、いずれもが、予測の範囲を超えず確定的な攻撃とは思われなかった。しかし、もう残された時間は少ないのである。