第15話 作戦会議
第15話 作戦会議
作戦が失敗した時点で桃九は次の手を持っていなかった。超人類はその特性により学習能力が弱い。ただ長年生きてきた経験値が超人類の思考を支えていた。つまり、次の作戦は必然的に桃九頼りとなっていった。
ここで桃九はチロルの前で座禅を組み、修行で得た思考状態の変遷を行った。チロの測定によるとこの事件の前は集中状態の上限は88%、空状態の上限は72%、自由状態の上限は58%であり、その変遷速度は0.02秒であった。この思考状態の変遷は極限状態におかれると飛躍的に数値は上がっていくらしく、今正に桃九がその状態であった。チロが帰ってこないと正確な数値はわからないが、全ての数値があがっているように利助には見えた。利助は実験室の入り口の番をしている。万が一、超人類の誰かが桃九の思考を乱しにやってくると拙いからであったが、さすがに超人類は急かしたい気持ちを抑えて桃九に頼るだけとなっていた。
3日が過ぎ、超人類もさすがにいらついてきていた。いつ海王星が急変を迎えてもおかしくないのである。そのとき、桃九は実験室から出てきて、ラーたちを呼び集めた。
桃九:「残念ながら対処方法はまだみつかりません。そこで問題点を洗い出したいのです。おそらく次の作戦の失敗は人類の滅亡を意味します。つまり、疎漏があってはいけないのです。わたしもいくつか問題点を洗い出しましたが、先に皆さんの意見を聞きたいのです。わたしが先に問題点を口にすると皆さんの考えに影響を与える可能性が大きいからです」
ガリレオ:「最大の問題点は我々の送り込んだ基性物質がウイルスの免疫力に負けてウイルスを侵せなかったことです。ウイルスの免疫力に勝つことが残された方法だと思います」
桃九:「ガリレオさん、ちょっと待ってください。問題点の洗い出しと対処方法は分けて考えましょう。一緒に考えると会議の内容が混乱するかもしれません」
ソクラテス:「分かりました。しかし、問題は対処方法だと思うのです。免疫力に正面から対抗するのは、力対力の関係であり、こちらの分がよくないと思うのです。なにか全く違う対処方法を考え出せないでしょうか?」
桃九:「……違う方法ですか……。では問題点の洗い出しが終わったら考えてみることにしましょう」
ラー:「と言われても勝てないことしか問題点が思い浮かびませんね」
シヴァ:「わたしが行ってやっつけてきましょうか」
桃九:「貴女も生身の身体ですよ。無謀としか言えません」
ラー:「お前は黙っていろ」
シヴァは物質を破壊することに関しては超人類屈指であったが、考えることにおいては下から数えた方が早かった。たまたま会議に参加していたシヴァはラーに一喝されてこれ以降沈黙を守ることになる。
桃九:「破壊か……。どうやらソクラテスさんの言う通りですね。基へのこだわりが強かったようです。あのウイルスの弱点を考えて、そこを攻撃しましょうか」
シヴァは桃九の反面教師となったようである。桃九の思考の切り替えは早く、基へのこだわりを既に捨て去ったようである。そして次の手の思考に沈む桃九であった。