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脈流  作者: 智路
4 シンクロニシティ
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第14話 核融合免疫

第14話 核融合免疫

 勝智朗は精神体であるため、視野を微視化することができる。精神体の記憶は映像で持つことも可能であるが、その映像を直接桃九に見せることはできなかった。桃九に作戦の失敗の状況を伝える手段はイメージ画像を桃九に投影することしかできなかった。よって、桃九は状況を断片的にしか捉えることができないことになる。それでも桃九は、

「ちょっと待って、そこをゆっくりと見せて」

と、気になる部分を分析していくのであった。

 すると、どう見ても攻撃酵素が持つ4つの基の1つでもウイルスに触れた瞬間に基が消滅するようなのである。桃九は考え方を見直さなければならないと思った。ウイルスは有機物を食料としているのではなく、免疫機能により侵入した敵を攻撃しているだけなのかもしれなかった。しかし、それでは対になっている産卵して増殖するウイルスとの関係がわからなくなる。そしてチロの言う発現していないDNAとは何なのであろうか。

 白血球の一部は細菌を貪食する。桃九はこれと同じではないだろうかと考えた。あのウイルスの食べるという行為は核融合や電子-陽電子の対消滅によって行われている。また、あのウイルスの免疫機構は自分自身に触れて影響を与える基に対して攻撃すると考えられる。白血球の貪食をする機能とは異なるが、異生物なのであるから全ての機能が同じであるはずは無いのだ。つまり、攻撃=食すという性質のウイルスだと考えられる。

 では、どのようにしてあのウイルスはそのような能力を獲得したのであろうか。そして攻撃機を破壊した能力とはいかなるものなのだろうか。一番目の問いは考えないことにした。考えても答えを得る可能性は低く、それがわかったとしても直接的な対策に結びつくとは限らなかったからである。2番目の問いの答えは見つかった。その映像は少ないが、ウイルスの一部が攻撃機の周囲に存在する水素を核融合しているようなのである。これは2つのことを意味しているように考えられた。1つは一部のウイルスのDNAが発現して無機物も食するようになったことと、1つは自身を攻撃する敵性の存在を免疫の延長としてウイルスの外部まで知覚できるようになっているということである。

 このDNAの発現と学習能力の高さに桃九らは対処に苦しんだ。残された時間などすでになく海王星が太陽と化すのをじっと待つしか術がないように思われた。海王星が太陽のように核融合連鎖を起こすと、太陽系の全ての星々に多大な影響を与えると予想された。公転軌道や磁場の乱れ、隕石が雨のように降ってくることも考えられた。つまり、最悪の場合人類はこの環境に適合できず全てが死滅するのではないかと考えられていた。

 海王星の大気は80%以上を水素で占め、あのウイルスにとっては温床にも等しかった。桃九らが苦慮しているころ、海王星ではウイルスの活動に変化が起きていた。無機物を食するDNAが発現したウイルスの増加は減る傾向にあった。理由は、桃九らが攻撃に用いた有機物を完全に消化出来ず、これを消化するための学習を行っているからであった。消化できなかったのはプログラム基の周辺の有機物であり、勝智朗の視野に移らないほど小さな有機物であった。つまり、このことを桃九らは知らないことになる。プログラム基は爆発の衝撃で正常な命令実行をできなくなっていた。つまりプログラムは暴走しているのである。暴走したプログラムは周囲の組織をランダムに変化させ、ウイルスの核融合を邪魔しているようであった。水素の核融合の場合水素同士が正面衝突したとき最も威力を発揮する。しかし、対象組織がランダムに動いてしまうため、中には正面衝突できない水素もあったのである。これが、消化できない部分となった。そのためウイルスは進化速度を緩めることになる。


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