第5話 桃の精
第5話 桃の精
突然の呼びかけに桃九は驚いたが、勝智朗とのこともあるのでそれほどではなかった。
「誰だろう」
「わたしはチロです。この世界が創造されたときから存在するものです」
「へ~、じゃあ貴女がこの世界を作ったの?」
「いいえ、この世界を創造したのはわれらの主です」
「それなら貴女はこの世界のお目付け役かな?」
「それも違います。われらは主のほんのきまぐれでこの世界に投入されたのです。われらの望みは元の世界に帰ること、それだけです」
「われらっていうけど貴女のような存在がこの世界にはたくさんいるの?」
「はい。数十の精が投入されたようですが、わたしがよく知っている仲間は13だけです」
「ふ~ん。元の世界に帰ることが望みだっていうけど何か目途は立っているの?」
「そこが問題です。全く目途が立っていないというに等しく、こうやって模索している有様なのです」
「そ~か~。それはお気の毒にとしかいいようがないね。え?こうやってって、どうやって?」
「話すと長くなるのですが、1つは貴方のような存在を捜すことです。貴方は肉体1つに対して、精神の受け皿が複数存在します。そう感じたことはありませんか?」
「精神の受け皿?頭の中に別な人が同居しているような感じかな?」
「そうです。わたしが、そのような人類に出会ったのは3人目です」
「たったの3人?人類はどのくらい前からこの地球に住んでいるの?他の2人はどうなったの?他にも聞きたいことはたくさんあるけどとりあえずこの2つを教えて」
「最初の質問は微妙ですね。その質問に答えるよりは、こう言った方がいいかもしれません。この地球の生命体を産んだのはわたしです。われらの望み、わたしの望みを叶えるために生命体を産んだのです。誤解のないように言えば、産むというより構築したといった方がいいでしょうか。詳しいことは追々話すとして、生命体には精神が宿ることができます。しかし、全ての生命体に精神が宿っているとは限りません。生命とは物質と精神を繋ぐ精神の受容体のようなものです。わたしの望みを精神の宿った生命体に叶えてもらおうと思ったのです」
「でも精神は貴女を含めて13か数十しか存在しないのでは?」
「はい、最初はそうでした。精神を分裂させて増やしていったのです。細胞分裂をイメージすればわかりやすいかもしれません。ところが、分裂するごとに記憶が薄れていくのです。わたしも2度ほど分裂したため記憶が薄れている部分が存在します。分裂した残りの3つのわたしの精神がどうなったのかはわかりません。近くにいればわかると思うのですが」
「なるほど。延々と分裂して増殖している精神があるかもしれないってことだね。それじゃあ、他の2人のことを教えて」
「一人目は、周囲の部族を支配することのみに興味があって、やがてわたしはそのものから離れていきました。二人目は西洋の中世期に魔女狩りにあってあえなく亡くなりました。わたしの望みは帰ることです。その方法はわたしにもわかりません。貴方がわたしを救うのです」