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脈流  作者: 智路
4 シンクロニシティ
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第6話 希望の実験室

第6話 希望の実験室

 桃九はチロからいくつかのことを指示されている。中には他言無用の内容もあったが、最も重要なことはチロの代行を言い渡されたことである。これは人類が超人類の上に立つことを意味し、超人類から不平がでてもおかしくなかった。チロが言うには「ラーにもソクラテス、ガリレオにも納得させています。あなた方にこの問題を解決することができますかと尋ねたら一様に押し黙って、それじゃあ、この問題の対策の指揮権を桃九に委譲しても問題ありませんねと言ったら、承知しましたと答えてくれました」ということだったが、果たしてその通りにいくのか桃九には心配だった。

 調査隊や部隊を動かすときに指揮するものは、実質的には超人類となるが、問題解決の方針などの決定権が自分に委譲されたものだと桃九は思っている。確かに問題解決の鍵になると思われる実験室の管理者は桃九であり、桃九抜きでは問題は解決できないだろうとムー5島の者たち全てが感じていた。

 桃九はマ・ムー島とイ・ムー島の研究者たちにいくつかのことを指示している。しかし、これはチロが桃九に指示したことと全く同じ内容で、その内容の概要さえ桃九にはぼんやりとしか理解できていなかった。桃九は指示した研究の成果があがったら受け取ることになっているのだが、それをどうすればいいのかチロは教えてくれなかった。「桃九ならそのときわかりますよ」と言い残して去っていったのである。

 指示を出した後、桃九は実験室にこもり切りとなった。助手の利助以外は立ち入り禁止となっている実験室はそれほど大きくなかったが、実験機材は桃九が見たことのない素材で作られているようだった。桃九の作業は、チロが残したコンピュータに似た機器から得られる理論や技術を学ぶことから始まった。利助の役目は桃九が学んだことを実験できるように準備し、実験から得られるデータを収集することであった。何故、学んだことの実験が必要かと言うと、チロでさえ、理論や技術の組み合わせが多く、全ての実験を行っているわけではなかったからである。今回の問題解決に役立ちそうなものを実験で確かめろということらしい。

 桃九はチロが残していったコンピュータに似た機器をチロルと名付けた。これは名前をつけないと自分でも人に説明するときにも不便だからという理由に過ぎなかった。チロルの情報はチロの言うとおりに断片的に得ていった。全ての情報を最初から理解する時間はなく、チロの言うにはU-1型ウイルスが次に進化して活性化するのは早くて半年後、遅くとも1年半後だそうである。U-1型ウイルスは学習をする可能性があり、学習によって得たものが、エネルギーの取得を有機化合物だけでなく無機物、つまり海王星に存在する水素と電子全てとなったら、事態の予測はチロにも不可能だというのである。拠って、桃九の学びと問題解決に残された時間は半年とされていた。

 しかし、桃九の学びはのろかった。1週間経っても全体の1%も進んでおらず、その理由はチロルの情報が何を意味しているのかわからず手間取っているのであった。つまり、チロルの言うことに対する概念の構築が難しかったのである。利助はときどき桃九から相談を受けるが、利助とて何かがわかっているわけではない。利助は、桃九と話しているとき以外の時間を実験機材の観察にあてていた。こちらもなるほどと理解できる実験機材は少なく、二人の前途は多難が予想された。


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